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【2025年8月最新】「金利上昇」と「マンション価格の上昇」が消費者に与えた代償は、マンションの居住性?

マンションリサーチ株式会社(東京都千代田区神田美土代町5-2)はホームローンドクター株式会社(東京都中央区八丁堀2-19-6)代表取締役 淡河範明(おごう のりあき)氏への聞き取り調査による住宅ローン金利の推移の予測と、マンションリサーチ株式会社保有データを用いて中古マンション市場の現況について調査しました。

目次

金利から見る、中古マンション市場

グラフ1:DH住宅ローン指数の推移【出典:ホームローンドクター株式会社】
グラフ1:DH住宅ローン指数の推移
【出典:ホームローンドクター株式会社

DHローン指数:ダイヤモンド不動産研究所とホームローンドクター株式会社が共同で作成している住宅ローン金利の参考指標。主要な銀行の住宅ローン商品をもとに、変動金利・固定金利・全期間固定型などの代表的な金利水準を算出したもので、市場の金利動向を把握するための目安として用いられています。

住宅ローン金利の種類と相関性

住宅ローン市場の動向を分析すると、金利の種類によって反応が大きく異なることがわかる。

本来であれば、全期間固定金利が上昇すると、10年固定金利や変動金利も追随して上昇するのが一般的である。これは、金融機関が借入金の調達コストや長期金利の動向をもとに金利設定を行うためであり、固定金利型は市場金利に連動する性質を持つからである。

しかし、実際に2016年1月から2025年7月までの各金融機関の住宅ローン平均金利の推移を比較すると、全期間固定金利と10年固定金利には非常に強い相関性が見られる一方で、変動金利との間にはほとんど相関性が確認できなかった。

日銀政策と変動金利の低水準維持

この背景には、日銀の金融政策が大きく影響している。日銀は長らく短期金利を低水準に据え置き、ゼロ金利政策やマイナス金利政策を通じて金融緩和を維持してきた。

加えて、銀行間の顧客獲得競争が激化したことで、特に利用者が多い変動金利型住宅ローンに対しては、優遇幅を拡大する形で実質的な低金利が提供された。

その結果、2024年後半まで変動金利は非常に低く抑えられ、消費者にとって魅力的な選択肢として維持されていたのである。

政策金利引き上げと変動金利の上昇

しかし、金融政策の転換点となったのが2024年7月である。この時、日銀は政策金利を0.25%に引き上げ、これにより銀行の調達コストも上昇することとなった。

結果として、変動金利も従来の低水準から上昇に転じ、これまで全期間固定金利や10年固定金利と異なる動きを示していた変動金利は、再びこれらと強い相関性を持つようになったこの動きは、金利上昇が家計負担に直結する住宅ローン市場の敏感さを示す典型的な例である。

首都圏住宅市場の価格動向

グラフ2:首都圏都道府県別:中古マンション平均成約価格推移
【出典:福嶋総研】
グラフ2:首都圏都道府県別:中古マンション平均成約価格推移
【出典:福嶋総研】

一方、首都圏の住宅市場の動向にも変化が見られる。東京都を除く埼玉県、千葉県、神奈川県の平均購入価格は、2024年前半までは上昇傾向にあったものの、その後の推移は地域ごとに差が生じている。

具体的には、埼玉県と千葉県では平均購入価格が微減傾向となり、神奈川県ではほぼ横ばいで推移している。

この現象は、価格が既に高騰していたところに金利上昇が加わり、住宅購入における家計負担の上限に達したことが影響していると推測される。住宅価格が一定水準を超えると、世帯の返済負担率が急増し、購入意思が鈍化するためである。

成約面積の減少と居住性への影響

グラフ3:首都圏都道府県別中古マンション平均面積推移【出典:福嶋総研】
グラフ3:首都圏都道府県別中古マンション平均面積推移
【出典:福嶋総研】

さらに、各エリアの成約面積の推移を見ると、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県のいずれも減少傾向が見られる。これは、購入価格を抑制するために、居住性をある程度犠牲にせざるを得ない状況が生じていることを示唆している。例えば、間取りを小さくしたり、立地の利便性よりも価格重視で選ぶケースが増えている可能性がある。

このような動きは、住宅ローン金利の変化と密接に関係しており、金利の上昇が住宅市場全体の構造に及ぼす影響を如実に表している。

住宅ローン金利と市場動向の総括

総じて、住宅ローン市場における金利の動向と首都圏の住宅価格・成約面積の推移は、密接な関連性を持つことがわかる。

特に、変動金利の低水準維持とその後の上昇、各県の価格上昇から横ばい・微減への転換、そして成約面積の縮小傾向は、住宅購入者の家計負担感や市場の適正価格圏を示す重要な指標である。

今後も金利動向と住宅価格の関係を注視することは、住宅購入を検討する消費者にとって不可欠であるといえる。

変動金利

表面的には上昇、実質は横ばい

2025年7月は、短期金利に大きな変化はなく、多くの銀行が金利を据え置きました。
ただし「DH住宅ローン指数」で見ると、変動金利は 1.031% と、前月の 0.847% から上昇。前年同月(0.504%)と比べても高い数字です。

グラフ4:DH住宅ローン指数の推移(変動金利)
【出典:ホームローンドクター株式会社】
グラフ4:DH住宅ローン指数の推移(変動金利)
【出典:ホームローンドクター株式会社

一見すると「金利が大きく上がった」と思われるかもしれませんが、これは 優遇制度の適用方法が変わった影響であり、実質的には横ばいです。

※「優遇制度」とは?
「店頭金利からの引き下げ」を行う仕組みで、利用者の属性(収入・勤務先など)や銀行との取引内容によって引き下げ幅が変わります。

銀行の動き

優遇制度の変更を除いて見ると、7月に金利を上げたのは 楽天銀行のみ。これは従来通り「短期金利の変動に合わせた調整」で、他の銀行は横ばいを維持しました。

金融機関の共通認識は「日銀の政策金利は当面変わらないだろう」というもの。つまり、銀行も積極的に動くのではなく、しばらくは様子見のスタンスを続けると考えられます。

政治・経済の背景

7月は参院選の結果や日米関税交渉の合意、自民党総裁の続投など、政治的なイベントが相次ぎました。日銀は「政策金利の変更は慎重に見極める」との姿勢を示していますが、植田総裁は「政策金利は0.5%と低い」と発言。

経済の動き次第では、年内にも利上げ圧力が強まる可能性があります。

10年固定金利

金利上昇で選択肢としての魅力が低下

これまで住宅ローンの主力商品とされてきた「10年固定金利」ですが、最近は金利上昇のため選ぶ人が減っています。特に「全期間固定」も扱う銀行では、10年固定に積極的ではなくなってきています。

10年固定金利は「10年国債」の利回りを参考に決まります。
7月は、参院選後の財政拡大懸念や、日米関税交渉の決着などから国債金利が上昇し10年国債の利回りは 1.462% → 1.559% へ上がりました。

その結果、DH住宅ローン指数の10年固定は 1.885% と前月(1.680%)から大幅上昇。前年(1.315%)と比べると、すでに0.5%以上も高くなっています。

グラフ5:DH住宅ローン指数の推移(10年固定金利)【出典:ホームローンドクター株式会社】
グラフ5:DH住宅ローン指数の推移(10年固定金利)
【出典:ホームローンドクター株式会社

銀行の動き

  • 調査対象13社すべてが金利を引き上げ
  • 2%を切る銀行は 13社中5社のみ
  • フラット35(1.87%)より低いのは4社だけ

つまり、今や大多数の10年固定金利はフラット35より高い水準にあります。実質的に割安な金利を提示しているのは、SBI新生銀行やPayPay銀行、イオン銀行などのネット銀行が中心です。

ただし、この割安感も今後の金利上昇で解消されていくと見られます。

政治・経済の背景

8月以降も米国では関税政策によるインフレ懸念が強まり、米長期金利が上昇。それを受けて日本の金利も上昇基調にあります。日銀が政策金利を引き上げれば、10年固定はほぼ確実に2%超えとなるでしょう。

全期間固定金利

全期間固定金利の現況

「全期間固定金利」は、変動金利に比べて割高に見えるため敬遠されがちでした。ただし、最近は変動金利の上昇もあり、徐々に選ぶ人が増えているようです。実際にSBIアルヒでは全期間固定への借り換え件数が前年比5倍になったと発表されています。

5年ルール・125%ルールの存在

一方で変動金利が人気を保ってきた理由の一つが、以下の仕組みです。

「5年ルール」:金利は半年ごとに見直されるが、毎月の返済額は5年間据え置き
「125%ルール」:5年後に返済額が見直されても、元の返済額の125%までしか増えない

つまり、金利が上がっても「すぐに返済額が増えるわけではない」ため、変動金利利用者が上昇リスクを実感しにくいのです。

グラフ6:DH住宅ローン指数の推移(全期間固定金利)
【出典:ホームローンドクター株式会社】
グラフ6:DH住宅ローン指数の推移(全期間固定金利)
【出典:ホームローンドクター株式会社

銀行の動き

全期間固定金利は「10年国債」だけでなく「超長期国債」も参考に決まります。7月は債券金利の上昇があり、全体的に金利上昇傾向が強まりました。

ただし、DH住宅ローン指数の全期間固定は 2.538% と、前月(2.321%)より下落。これは一時的に国内金利が下がった影響ですが、1年前(2.006%)と比べれば依然として上昇トレンドにあります。

  • 調査対象14行すべてが金利を引き上げ
  • フラット35(買取型)の基準金利は 1.78% へ上昇したが、依然として魅力的な水準

政治・経済の背景

全期間固定金利は「内外金利」「為替」など幅広い要因で動きます。現在の国際経済を背景とした米国金利の上昇や円安傾向が続けば、さらに金利が上がるがる可能性は高いでしょう。

一方で、「毎月の返済額が変わらない安心感」を重視するなら、フラット35など全期間固定は依然として有力な選択肢です。とくに共働き家庭や長期的に安定した計画を立てたい方に向いています。

まとめ

変動金利

見かけは上昇も、実質は横ばい。日銀は「政策金利の変更は慎重に見極める」との姿勢を示していますが、植田総裁は「政策金利は0.5%と低い」と発言。経済の動き次第では、年内にも利上げ圧力が強まる可能性があります。

10年固定金利

国債金利上昇で一気に高止まり。2%超え目前。8月以降も米国では関税政策によるインフレ懸念が強まり、米長期金利が上昇。それを受けて日本の金利も上昇基調にあり日銀が政策金利を引き上げれば、10年固定はほぼ確実に2%超えとなるでしょう。

全期間固定金利

現在の国際経済を背景とした米国金利の上昇や円安傾向が続けば、さらに金利が上がる可能性は高いでしょう。一方で、「毎月の返済額が変わらない安心感」を重視するなら、フラット35など全期間固定は依然として有力な選択肢です。

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この記事を書いた人

福嶋 真司のアバター 福嶋 真司 マンションリサーチ株式会社 不動産データ分析責任者

【保有資格】宅地建物取引士
早稲田大学理工学部経営システム工学科卒。大手不動産会社にてマーケティング調査を担当。現在はマンションリサーチ株式会社にて中古マンション市場調査を行い、顧客に情報の提供を行っている。

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