
はじめに
2024年以降の市場構造変化
2024年から2025年にかけて、首都圏特に東京都の中古マンション市場には、従来の上昇基調とは異なる構造的な変化が見られるようになりました。背景には、新築価格の高騰、住宅ローン金利の上昇、円安や海外資金流入、さらには都心回帰のライフスタイル志向など、複数の要因が複雑に絡み合っています。
従来の東京都中古マンション市場は、価格帯にかかわらず高値安定傾向が特徴であり、一定の価格であればほぼ確実に売却が成立する状況が続いていました。しかし2024年以降、特に中間層向け価格帯の取引が鈍化し、都心高額帯では依然として堅調な動きが続くなど、価格帯による市場の二極化が顕在化しています。これは単なる一時的な現象ではなく、地価や建築費、資金調達環境の変化などに基づく構造的変化であると考えられます。
本レポートでは、2025年7月から9月までの四半期データをもとに、価格帯別の成約動向と再販市場の実態を分析し、金利や購買心理の影響を詳しく解説します。また、東京都心と周辺三県の動向比較も行い、今後の市場動向を予測する上での指針を示します。
価格帯別中古マンション市場の動向
1億円以上2億円未満~実需層が支える高級市場~
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【出典:福嶋総研】
東京都における1億円以上2億円未満の中古マンション市場は、現在も活発な動きを見せています。この価格帯の物件は、企業経営者や外資系勤務者、医師、弁護士といった高収入層が中心で、金融機関による住宅ローン審査を容易に通過できる属性を持つ購入者が多いことが特徴です。
この層が選ぶ物件は、以前は単なる「高級住宅」としての象徴的存在でした。しかし現在では、都心で一定のクオリティを求める実需層が選ぶ標準価格帯として定着しています。例えば、千代田区、中央区、港区、渋谷区といった都心エリアでは、坪単価が700万円から900万円に達するマンションも珍しくなく、50㎡台前後の物件でも1億円を超える価格で取引されるケースが増えています。これは、もはや単に「高級物件」としての位置づけではなく、都心で生活の利便性と品質を確保する実需層の選択肢としての意味合いが強まっていることを示しています。
さらに、円安の進行による海外投資家の日本不動産への資金流入や、都心回帰のライフスタイル志向もこの層の購買意欲を押し上げています。住宅ローン金利がやや上昇したにもかかわらず成約件数が減少していない点から、現金購入比率の高さが市場の底堅さを支えていることがわかります。こうした状況は、短期的な金利上昇の影響を吸収し、価格を下支えする要因となっています。
2億円以上5億円未満~中間高級帯の減速~
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【出典:福嶋総研】
一方で、2億円以上5億円未満の中間高級帯では、成約件数の伸びが鈍化しています。2023年頃までは都心部の中核的な取引ゾーンであり、企業経営者や外資系エグゼクティブ層、富裕層などによって支えられていました。しかし、2024年後半からの取引状況を見ると、徐々に停滞感が見られるようになっています。
特に東京都心3区においては、中央区は横ばい傾向にある一方、千代田区は緩やかに減少し、港区では2025年夏以降、成約件数が大きく減少しています。この減速の背景には、価格と品質の乖離が存在します。近年、都心では地価や建築費の高騰により、築年や立地条件に見合わない高額中古物件が増加しています。具体的には、もともと1.5億円クラスであるべき物件が、相場上昇に伴って2億円を超える価格で市場に出るケースが目立つようになりました。
このような物件では、購入層から「この価格であれば新築を選ぶ」「条件の良い別のエリアを検討する」「海外投資に切り替える」といった選択が増え、結果として取引件数の減少につながっています。中間高級帯は、価格上昇が購買心理に直接影響を与えやすいセグメントであり、今後の市場動向を読む上で注視すべき価格帯といえます。
5億円以上~富裕層市場の安定性~
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【出典:福嶋総研】
5億円以上の超高額帯は、富裕層マーケットとして依然として安定しています。青山、麻布、一番町、代官山といった都心一等地のプレミアムレジデンスや、湾岸エリアの最上階ペントハウスが代表的な物件です。この価格帯では、取引件数自体は少ないものの、価格は底堅く推移しており、富裕層は価格よりも希少性や資産保全性を重視する傾向があります。
特に、株式や暗号資産などのリスク資産から、都心高級マンションのような安定的価値を保つ不動産への資金シフトが顕著であり、超高額帯は「資産逃避先」としての性格を強めています。その結果、売却を急ぐ動きは少なく、買い手は「条件が揃ったタイミングで購入する」という慎重かつ計画的な動きが中心となっています。

首都圏中古マンションの売れやすさ

【出典:福嶋総研】

【出典:福嶋総研】

【出典:福嶋総研】

【出典:福嶋総研】

【出典:福嶋総研】
中古マンション市場を分析する際、販売日数と値下げ回数は重要な指標です。販売日数とは、売り出してから成約までに要した日数を指し、長くなるほど購入需要が弱いことを示します。一方、値下げ回数は売主が価格設定を維持しているかを表す指標であり、市場での売却姿勢を読み解く手がかりになります。
東京都においては、販売日数・値下げ回数ともに減少傾向が見られます。これは、買い手が積極的に市場に参入し、売主は価格を下げずとも成約可能な状況が続いていることを示しています。金利が上昇している局面にもかかわらず、需要が堅調であることの証左です。

一方、埼玉県、千葉県、神奈川県では、販売日数が緩やかに増加しており、物件が成約するまでに時間を要する状況が見られます。値下げ回数は横ばいで推移しており、売主側は価格期待を維持しているものの、購入者の資金負担が増しているため、成約が遅れる傾向にあります。特に、築浅マンションの価格が高額であるため、周辺県では購入が難しくなり、比較的低価格帯の築年が古い物件への需要シフトが進んでいます。
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【出典:福嶋総研】
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【出典:福嶋総研】
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グラフ5:千葉県築年帯別成約坪単価推移
【出典:福嶋総研】
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【出典:福嶋総研】

金利・マクロ経済の影響
住宅ローン金利の上昇は、多くの場合、購入者の返済負担を増加させ、需要を抑制する要因となります。しかし東京都心部においては、金利上昇前に購入したいという心理的要因も働き、むしろ成約件数を下支えする要素となっています。これは、実需層の駆け込み需要が一部発生していることを示しており、都心市場の底堅さに寄与しています。
また、建築費と地価の高騰、円安による海外資金流入といった要因も、価格帯別に異なる影響を与えています。1億円~2億円帯では実需が支え、2億円~5億円帯では価格上昇が購買心理に影響を与え、5億円以上では富裕層による資産保全の動きが価格安定に寄与しています。
今後の展望
今後の市場においては、価格帯による二極化の傾向が継続すると予想されます。1億円~2億円の実需層市場は堅調に推移する一方、2億円~5億円の中間高級帯は取引の停滞が続く可能性があります。5億円以上の超高額帯は、希少性と資産保全志向によって引き続き底堅く推移するでしょう。
金利上昇や建築費高騰の影響は、東京都心と周辺三県で異なる形で現れています。都心では駆け込み需要により価格下支えが発生していますが、周辺県では販売日数の延長が顕著になりつつあります。この違いは、今後の市場動向を分析する上で重要な指標となるでしょう。
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