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中国の不動産大手、恒大集団の経営問題が注目を集めています。そして、中国発のリスク連鎖を警戒し、株式市場など金融市場の不安心理も高まっています。
この記事では、恒大集団の債務問題が起きた原因と日本の株式市場や不動産市場に与える影響について解説します。
恒大集団は中国を代表する不動産開発業者で、1996年に広東省広州市で創業しました。低価格の小型マンションを手掛け、2000年代の中国の不動産ブームで急成長。2020年12月期の売上高は5,072億元(約8兆5,000億円)で、物件販売面積は中国2位でした。
不動産業で成功した恒大集団は、さまざまな分野へ進出します。その代表がサッカークラブの「広州FC」で、アジア・チャンピオンズリーグを2度制覇している名門です。さらに、ビジネスでは電気自動車(EV)開発やテーマパーク事業に手を広げ、社債発行や借り入れが膨らんでいきました。
2020年の夏、中国人民元銀行は大手不動産会社に対して守るべき財務指針「3つのレッドライン」を設けました。不動産会社はこの指針を守れなかった場合、銀行からの借り入れが制限されます。そこで、恒大集団は指針を守るために財務改善に努めました。
しかし改善の足取りは鈍く、「3つのレッドライン」のうち2つを守れていません。そして、恒大集団が代金の支払いが滞っているとの声が増えてきました。33兆円以上もの債務を抱える恒大集団の経営は一気に揺らぎ、世界の金融市場を揺るがす存在になったのです。
不動産業界にとって大きな打撃となったのが、習近平政権の動きです。
中国はコロナ禍で経済格差が拡大し、大都市圏の不動産価格が高騰していました。上昇を続ける中国の不動産価格は国民に「住宅神話」を生み、投機熱が高まりました。上海市の労働者の平均年収は12万4056元(約210万円)ですが、中古住宅の平均価格は100平方メートル換算で731万元(1億2400万円)となり、年収の約59倍に達しているのです。
そこで、習近平政権は不動産開発への締め付けを決定。2020年は中国人民元銀行を通じて「3つのレッドライン」を定め、2021年1月からは不動産企業や住宅ローンへの融資に総量規制を設けるなど、規制を強化させたのです。
恒大集団のデフォルト(債務不履行)リスクが高まったことによって、9月20日の世界の株式市場は大きく下落しました。香港のハンセン指数が3.30%安となったほか、米国のNYダウも1.78%安、日本の日経平均株価も翌日21日に660円(2.1%)安となったのです。
世界の株式市場が大きく下落した理由は、恒大集団の膨張した債務の大きさと、200億ドル(約2兆2000億円)に上る外債を通じた海外投資家へのインパクト、そして習近平政権の今後を占う試金石になると見られているからです。
習政権は、今年の夏に「共同富裕(ともに豊かになる)」という目標に向けた政策を発表しました。広がった格差を是正することが目的で、住宅価格上昇の原因となった不動産業界への規制を強めています。
恒大集団は負債を返却するために子会社や開発中のプロジェクトの売却を進めていますが、思うように進展していません。経営再建のために1兆9665億元(約33兆4000億円)にのぼる負債の処理を行えば、取引先や顧客だけでなく、銀行や内外の投資家へ大きな影響を与えます。
代表的なのが海外投資家向けに販売された約195億ドル(約2兆円)の米ドル債です。高利回り(ハイイールド債)のファンドなどを通じて世界中の運用会社が投資しており、資産運用最大手のブラックロックなども保有しています。
日本でも年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、2020年末時点で恒大とそのグループ企業の株式を37億、社債を59億円保有していると発表しています。
恒大集団の年内の利払い額は700億円を超えており、支払いがきちんとできるかどうかが懸念されているのです。
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北京や上海などの都市部住宅の平均価格は、勤労者家族の年収の数十倍に達しています。通常、住宅価格は勤労者家族の年収の5~6倍といわれているので、中国の不動産市場はバブルだいわれているのです。
ただ、中国全体で見れば政府が不動産市場を厳しく管理しているので、住宅価格は勤労者家族の年収の6倍前後で抑えられています。一部の都市部ではバブルと見られる現象が起こっているものの、中国全体で見ればバブルとはいえない状況なのです。
しかし、金融市場では恒大集団のデフォルト懸念を強めています。恒大集団は9月23日と29日に米ドル建ての利払いを見送り、30日間の猶予期間に入りました。
中国政府は救済のために銀行に資金繰りの支援を指示する可能性が高いと見られていますが、対応次第では国際的な金融市場に混乱が起きる可能性があるので、注意が必要です。
また、中国の不動産開発業界が大きな危機を迎えていることは間違いありません。2020年には500社以上の不動産開発企業が倒産しており、財務内容がよくない大手・中堅の不動産開発会社は60近くあるといわれています。
不動産セクターは中国経済の約4分の1を占めており、機能不全になれば中国経済が減速する可能性は高くなります。これまで、住宅価格高騰による資産価格の上昇が個人消費を支えてきたからです。中国国家統計局による と、 2021年上半期(1~6月期)の経済成長に対する消費支出の貢献度は61.7%に達します。
さらに、住宅バブルの崩壊は個人消費の失速だけでなく、不動産や建設業の雇用を喪失するなど、中国経済に大きな打撃を与えるのです。
現在のところ、恒大集団の問題は中国国内の問題と捉えられていて、2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機にはならないと考えています。黒田日銀総裁も、「株式市場など国際金融市場で神経質な動きが見られたものの、中国の不動産の問題として捉えている」と述べています。
日本国内の不動産には、REIT(上場投資信託)や私募ファンドを通じて投資マネーが流入しています。2021年6月末のファンドによる運用資産額は44兆円を超え、過去最高を更新しました。
コロナ禍で低金利が進み、運用難に悩む海外投資家や地方銀行などが安定した利回りが期待できる日本の不動産に投資しているのです。とくに少数の投資家に絞って運用を行う「私募ファンド」が増えています。2018年以降に資産額が増大して23兆円となり、上場REITの20兆円を上回っているのです。
私募ファンドに資金をだしているのは、地銀や信金などの地域金融機関です。これらの地域金融機関は上場REITに投資していましたが、2008年のリーマンショックや昨年のコロナショックなどの急落で損失覚悟の売りに追われました。
しかし、私募リートは基準価額の算定が半年に1回で、外部環境の影響を受けにくい仕組みになっています。ですから、恒大問題で世界のマーケットが影響を受けても国内の不動産市場への影響は限定的と考えられ、マンション価格などの上昇傾向も変わらないでしょう。
恒大集団の問題は、中国国内での影響は大きいものになります。
ただ、国内不動産への影響は限定的になると考えています。ただ、中国政府の対応により金融危機を誘発すると、株式市場などの国際金融市場に大きな影響を与えます。(12/9に格付け会社フィッチ・レーティングスが、格付けを部分的な債務不履行(デフォルト)に格下げしたと発表しました。12/9追記)今後、中国政府が恒大集団にどのような対応をするのかが最大の注目点になりそうです。
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一橋大学経済学部卒業後、証券会社でマーケットアナリスト・先物ディーラーを経て個人投資家・金融ライターに転身。投資歴20年以上。現在は金融ライターをしながら、現物株・先物・FX・CFDなど幅広い商品で運用を行う。
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