新築住宅が高騰する中、まるで新築のように綺麗にリフォームされた状態で販売される買取再販物件の人気が高まっています。買取再販の仕組みは、不動産会社自らが売主から中古マンションを購入し、リフォーム・リノベーションや修繕を加えたうえで再販し、その差益を収益とするもの。国からの補助なども多いことから、新規参入を画策している不動産会社も少なくないのではないでしょうか?
しかし、マンションリサーチの調査によれば、昨今の買取再販住宅市場には緩やかな需要減や販売価格の停滞が見られることがわかりました。今の時期の買取再販事業への新規参入は赤信号だといえるでしょう。
積みあがる在庫
- 買取再販マンションの在庫数:灰色塗つぶし・右目盛り
- その他の中古マンションの在庫数:オレンジの棒線・左目盛り
- 比較をわかりやすくするため、グラフサイズを同サイズに修正
上記グラフは、東京都23区の買取再販マンションとその他の中古マンションの在庫数の推移を表したものです。いずれもコロナ禍における1度目の緊急事態宣言が明けた2020年6月頃から徐々に在庫が減り始め、2020年末〜2021年を起点に在庫数が増加に転じていることがわかります。
一方、現在の在庫数に目を向けると、買取再販マンションはコロナ前と比較して著しく増えているのに対し、その他の中古マンションは在庫数が上昇傾向にあるものの、コロナ禍前には届きません。
コロナ禍前2019年12月の在庫数を「1」とした場合の「在庫数が減った2021年4月」「直近2023年8月」の数値は次のとおりです。
2019年12月 | 2021年4月 | 2023年8月 | |
買取再販マンション | 1 (2,326戸) | 0.87 (2,017戸) | 1.34 (3,109戸) |
その他の中古マンション | 1 (9,917戸) | 0.65 (6,406戸) | 0.84 (8,366戸) |
コロナ禍で買取再販マンションの需要は高まったものの、その他の中古マンションのほうが一貫して在庫数は少なく、現時点においてはその差は歴然です。
減少し続ける在庫回転率
- 在庫回転率:その時の「売り手」の数からみて「買い手」がどのくらい多いかを示す指標。この数値が高ければ高い程、需要が高い。
コロナ禍前〜2021年は、買取再販マンションもその他の中古マンションも15~20%前後の在庫回転率(売れやすさ)で推移していました。
いずれも2021年始頃を起点に回転率が上がり、25〜30%前後で推移するようになりましたが、この頃から買取再販マンションと中古マンションに差が見られるようになっています。その差分は、5%程度。ここ2年ほどは、買取再販マンションのほうが回転率は悪化しているようです。
その他の中古マンションも回転率は低下しているためコロナ禍前の水準に戻りつつありますが、買取再販マンションについてはコロナ禍前を下回る月も目立ちます。
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買取再販物件の販売価格は高止まり
再販マンションの価格は、コロナ禍前と比べて高騰しています。コロナ禍前は坪200万円~250万円ほどでしたが、直近の2023年8月の坪単価は約332万円です。しかし、現在の水準は2022年4月とほぼ同じ。つまり、1年以上、高止まりの状態が続いているのです。
昨今では、買取再販マンションだけでなく、中古マンション全体の価格が新築価格に引っ張られるように高騰しています。買取再販は、中古マンションを仕入れ、リフォームして再販する事業です。コロナ禍前と比べると確かに価格は大幅に上がっていますが、その分、仕入れ値も上がり、円安や人材不足から工事費も上がっているため、利益率を考えれば望ましい状況とはいえないでしょう。
まとめ
在庫が増えているというは、需要に対して供給が過剰であることを示唆しています。実際に在庫回転率は低下傾向にあり、売りづらくなっているということは数字で明確に示されています。
コロナ禍を経て、社会情勢や経済状況は一変しました。2022年4月の日経平均株価は26,000〜27,000円ほどで推移していましたが、今や3万円台を突破し、32,000〜34,000円で推移しています。今年の5月には新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、インバウンドも戻り、9月に発表された基準地価ではコロナ禍からの回復が顕著に見られました。
それに伴い、資材や人件費の高騰、働き方改革や高齢化による人手不足も進んでいることに鑑みれば、在庫数が増加し、販売価格が高止まりしている買取再販市場への参入は赤信号だといえるでしょう。中古マンション価格も高騰していることから、仕入れとともにリフォームや販売に強みが無い限り、買取再販業への新規参入は賢明とはいえない状況です。