中古マンションを探していると、「心理的瑕疵(かし)」という言葉を目にすることがあります。いわゆる事故物件と呼ばれるもので、購入検討者にとって気になるポイントのひとつです。
一般的には「価格が下がりやすい」と言われていますが、実際にどれほど影響があるのかについては、これまで十分に検証されてきませんでした。
そこでこの記事では、心理的瑕疵がマンション全体の価格にどの程度影響するのかを港区の中古マンションを対象に実データにもとづいて解説します。
心理的瑕疵とは何か?
心理的瑕疵とは「自殺・他殺・孤独死・事故死など、住む人に心理的な負担を与える出来事があった部屋」のことを指します。
一般的には「価格が下がりやすい」と言われることが多く、購入を検討する人が不安を抱えて契約を見送るケースもあります。人が亡くなった、事件があったという事実は、たとえ室内に痕跡が残っていなくても強く印象に残るものです。
そのため、「将来売りにくいのではないか」「値下げしないと買い手がつかないのでは」と考える方が多いのはごく自然なことだと言えます。

調査方法:心理的瑕疵発生前後の4年間を比較
調査は、心理的瑕疵の発生したマンションを複数選定し、「事由発生日の1年前~発生後3年」 の売買価格の推移を比較する形で実施しました。
対象マンションは、2009年から2021年にかけて港区内で心理的瑕疵が発生した中古マンションで、築年数や立地条件が異なる複数棟を抽出しています。調査に際しては、心理的瑕疵があった部屋そのものではなく、同一マンション内の別部屋の成約価格のみに注目しました。
また、心理的瑕疵の発生後に、売出件数が急増するかどうかも確認しました。もし瑕疵がマンション全体の資産価値を損なうなら、所有者の売却行動にも変化が生じる可能性があるためです。
心理的瑕疵が中古マンション価格に与える影響とは?
結論として、心理的瑕疵が中古マンションの価格に与える影響は「その出来事があった部屋には大きいものの、他の部屋への影響はごく限定的」である可能性が高いです。
心理的瑕疵のある部屋では、購入をためらう人が増えるため、ある程度の値下げが必要になるケースがあります。
一方で、「同じマンションの別の部屋まで値下げしなければならないのか」という点については、これまでの市場データを見るかぎり、明確な根拠が示されていません。
「マンション内で事故が起きたら、建物全体の価値が落ちるのでは?」という不安はよく聞かれます。
しかし実際の購入検討では、買い手は間取り・日当たり・眺望・価格帯など、その部屋固有の条件を重視することがほとんどです。
そのため、心理的瑕疵が起きた部屋以外まで影響が広がるケースは、非常に限られているのが実情です。
調査結果:心理的瑕疵でもマンション全体価格は下がらない
実際に港区の中古マンションを対象に調査したところ、心理的瑕疵が発生してもマンション全体の価格が下がるとは言えないことが分かりました。
対象となった複数のマンションのうち、心理的瑕疵の発生前後で価格が下落したのはわずか2棟のみです。
しかも、その2棟はいずれも1975年以前の築古物件で、心理的瑕疵そのものよりも老朽化や商品性の低下が影響した可能性が高いと考えられます。
今回の調査で港区を対象としたのは、取引が活発でデータが豊富に集まることから、価格の変化を正確に追いやすい点が理由です。
需要が安定しているエリアだからこそ、心理的瑕疵という個別の要因が市場にどこまで影響するのかを、より客観的に検証できます。
こうした背景を踏まえると、心理的瑕疵の影響よりも「築年数による価値の変動」や「市場全体の動き」の方が大きく、マンション全体の価格が下がるとは言い切れないという結果がより確かなものになります。
港区では心理的瑕疵の影響が目立たなかった背景
なぜ港区のマンション全体では価格が下がらなかったのでしょうか。
その背景には市況環境があります。港区のマンション市場は、2009〜2021年にかけて長く上昇傾向が続いていました。都心回帰や投資需要の高まり、歴史的な低金利が重なり、相場全体が強く押し上げられた時期です。
こうした相場が強い環境では、心理的瑕疵といった個別のネガティブ要因は価格へ反映されにくく、マンション全体の価値が下がるほどの影響にはなりにくい傾向があります。
つまり、港区の強い需要が心理的瑕疵の影響を相殺していたと考えられます。
情報拡散や報道など例外的に影響が広がるケース
例外的に、心理的瑕疵がマンション全体に影響するケースも存在します。
たとえば、大規模な事件で広く報道された場合や、SNSで情報が拡散し「評判」が大きく傷ついた場合などです。
ただし、こうしたケースはあくまで特殊であり、今回の港区の実データでは確認されていません。
日常的な心理的瑕疵では、マンション全体に影響が広がるケースは非常に稀と考えられます。
心理的瑕疵が敬遠される理由と市場での扱われ方
心理的瑕疵が敬遠されやすいのは、「感情的な抵抗」と「強い不安感」という二つの理由が大きく影響しています。
物件自体が傷んでいるわけではなくても、事件や事故があったと聞くと、多くの人がどうしても住むことに抵抗を感じてしまいます。
実際の不動産取引でも、心理的瑕疵のある部屋は価格を調整して販売されることが一般的で、市場相場よりも安めに設定されるケースが見られます。
ただしここで注意したいのは、この値下げはあくまで「心理的瑕疵があった部屋だけ」に適用されるという点です。同じマンション内のほかの部屋の相場が下がるという意味ではありません。
実際に所有している物件が事故物件になってしまったら?
前述の心理的抵抗の強さから、心理的瑕疵がある部屋は価格を調整して売り出されるケースが多くなります。では、実際に所有する部屋が心理的瑕疵に該当する場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
心理的瑕疵がある場合、売主には買主へ「告知義務(重要事項説明の一つで、過去に起きた事実を買主へ伝えるルール)」があります。これは、事件や事故が過去にあったことを契約前に説明しなければならないというルールです。この説明を怠ると、契約後にトラブルになったり、損害賠償を求められるリスクがあります。
正直に説明することで買主との信頼関係が築きやすくなり、成約にもつながりやすくなります。隠した方が得という考えは、結果的に損失につながるため注意が必要です。


まとめ:心理的瑕疵はマンション全体価格に影響しない
今回の港区の調査データから、心理的瑕疵が発生してもマンション全体の価格には影響しないことが確認できました。
影響があるのは基本的に「心理的瑕疵が発生した部屋のみ」であり、他の部屋まで値下がりが広がるケースは限定的です。
特に需要の強いエリアでは、相場の上昇力が心理的瑕疵の影響を上回りやすく、マンション全体の価値が下がることはほとんどありません。
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