ホームインスペクションのメリットは?何を見る?どう判断する?インスペクターが完全ガイド

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ホームインスペクションとは、主に中古住宅の売買前に実施される建物検査です。中古不動産流通がさかんな米国では一般的なもので、近年では日本でも実施例が増えています。

今回は、ホームインスペクションの第一人者であるさくら事務所のインスペクター友田雄俊さんが実際に購入したご自宅のインスペクションの模様を徹底レポート!同じく、さくら事務所のインスペクター田村啓さんの解説を織り交ぜながら、インスペクションのメリットやインスペクションで何を見てどう判断するのかを完全ガイドします。

お話を伺った方

株式会社さくら事務所執行役員
ホームインスペクター

田村 啓
大手リフォーム会社に勤務し、中・大規模リフォームの営業・設計・現場監理に従事。その後、株式会社さくら事務所に参画。ホームインスペクターとして、住まいや不動産の相談、個人向け一戸建て・マンション・収益物件インスペクション、住宅の防災コンサルティング、法人向け建築品質コンサルティングなどを担当。ホームインスペクターを育成するインストラクターとしても活躍する。

目次

ホームインスペクションとは不動産の「検査」

ホームインスペクションとは
出典:国土交通省

ホームインスペクションとは、新築や中古住宅の施工や劣化などの状態を客観的に診断するために、ホームインスペクター(住宅診断士)など第三者の住宅建築の専門家が行う調査のことです。

中でも、中古住宅の売買では、国土交通省が定める講習を修了した既存住宅状況調査技術者が、建物の基礎や外壁など建物の構造体力上主要な部分と雨水の進入を防止する部分における劣化・不具合の状況を把握するための検査を行うことを指し、建物状況調査・インスペクションと呼ばれます。

不動産仲介会社やリフォーム業者ではなく、第三者機関が検査を実施することにインスペクションの意義があります。客観的かつ中立的な検査によって建物の状況を把握することで、不動産売買前の不安が解消されます。

検査方法

インスペクションは、基本的に非破壊検査です。つまり、壁や床、天井を壊して内部まで確認する検査ではありません。インスペクターによる目視や触診、打診、あるいは機材を使った計測などによって検査します。

ホームインスペクションのメリット

ホームインスペクションは、買主だけにメリットのある検査だと思われがちです。しかし、実際には買主、売主、両方にメリットがあります。

買主のメリット

中古住宅の購入には「中古ならでは」の不安もあるはず。インスペクションは、こうした不安を解消するために効果的です。

安心して購入できる

中古物件には、多かれ少なかれ一定の経年劣化が見られるものです。また中には、施工不良がある中古住宅もあります。これらの劣化や不良は、一般の人が見ただけではわからないものや判断できないものも含まれます。

ホームインスペクションの第一のメリットは、プロの第三者機関が検査してくれることで、見た目ではわからない不動産の状況を正しく把握できることにあるといえるでしょう。

リフォームやメンテナンスの計画が立てやすくなる

どんな住宅でも、長く、安心して住むためには定期的な修繕やメンテナンスが必要です。中には、リフォーム前提で中古住宅を探されている方もいらっしゃるでしょう。

インスペクションの目的は、建物の状況を知ること。これにより安心して購入できるとともに、どんな部分をどのように修繕すべきか、あるいは今後メンテナンスしていくべきかの判断がしやすくなります。購入時を含め、いつどれくらいの修繕費・メンテナンス費がかかるか把握できれば、大きな安心になるはずです。

売主のメリット

「検査によって物件の悪い部分を知られてしまうのではないか」との考えから、インスペクションを否定的に考える売主も少なくありません。しかし、建物の状況をわかったうえで購入してもらえることは売主にとっても大きなメリットとなります。

物件の付加価値になり得る

中古住宅の購入を検討している人は、物件の状況に対して不安を感じています。この不安の多くは「わからない」ことによるもの。プロの第三者機関が建物の状況を検査すれば、物件に「安心」を付加できます。人生で最も高額な買い物における「安心」の価値は非常に大きいものです。競合物件との差別化や早期売却、売買条件の交渉など、さまざまな効果・役割に期待できるでしょう。

田村さんによれば、実際にホームインスペクションで安定したコンディションだとわかった物件が、相場より高く売れた事例もあるといいます。

「契約不適合責任」のリスクが下がる

2020年度から、民法改正により不動産の売主の責任が「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わりました。

契約不適合責任とは、契約内容と適合していない不備や不良に対して売主が修繕などの責任を負うものです。契約内容として合意している不備や不良に対して責任を負う必要はありません。つまり、「売買契約時の物件状況の合意内容」次第で、契約不適合責任の範囲は大きく変わってきます。

たとえば、売買契約書に雨漏りの記載があれば、売買後に雨漏りが見られても売主が修繕する必要はないということ。もちろん、契約前に修繕などの交渉が入る可能性はあり得ますが、建物の状況を検査し、契約書に明記しておくということは、売買後の売主のリスクを引き下げることにもつながるのです。

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ホームインスペクションで何を見る?どう判断する?

さて、ここからは、実際のホームインスペクションの様子をレポート!インスペクターさんの田村さんによれば、劣化や不具合のサインが見られたとしても、必ずしも重大な問題が潜んでいるというわけではないのだとか。インスペクションをするうえで大事なのは、調査結果から次のような判断をすることです。

  • すぐに修繕が必要なのか?
  • 修繕が必要だとすればいくらかかるのか?
  • 安心して購入できる物件なのか?

見た目だけでは判断できない状況を知ることが、ホームインスペクションの目的です。インスペクションでは、実際にどんなところを見て、どのように判断していくのか聞きしました。

壁や床のシミ

壁や床のシミ

こちらは、畳を外した和室の床。壁側の床にシミがあることがわかります。ただ必ずしも、シミがある=雨漏りが発生しているとは限らないといいます。

雨漏りによって床にシミができている場合の多くは、壁紙にも雨染みがみられます。しかし、この箇所の壁にシミは確認できませんでした。田村さんによれば「断定はできないが、このシミは結露によるものの可能性が高い」とのこと。結露も問題がないとはいえませんが、雨漏りのようにすぐさま修繕すべき事象ではないといいます。しかし、壁内の結露が続けば構造躯体にも影響する恐れがあるため、住んでからも注視はすべきとのことでした。

内見時など畳が上げられない状況でも、湿気がたまりやすい押し入れなどの収納を見ることでも結露の有無を確認することができるのだとか。また「畳にカビが生えている」「歩くと沈む」といった事象も、結露や雨漏りのサインかもしれません。

水まわりの配管

キッチン下の配管
洗面台下の配管

水まわりの配管部に水漏れが起きていないかチェックします。キッチンや洗面台の水漏れというと、噴き出したりポタポタ滴ったりするイメージがあるかもしれませんが、少しずつ、じわじわと水が漏れ出すこともあるのだとか。その場合、配管周りに腐食が見られたり、カビ臭がしたりするといいます。水道が使える場合には、水を流しながら目視とともに触って水漏れを確認します。

浴室の天井裏

浴室の天井裏
浴室の天井裏

浴室の天井裏を見るときのポイントは、次の3つだといいます。

  1. 換気扇のダクト
  2. 雨染み
  3. 石膏ボード

換気扇は浴室の湿気や空気を外に出すためのものですが、ダクトがうまくはまっていないと天井裏に空気が漏れ出してしまいます。湿気を多く含む空気が天井裏に流れつづけると、腐食やカビの発生につながりかねません。

また、他の部分と同様に、雨染みの有無から雨漏りをチェック。加えて、火事の際に延焼を食い止める役割のある石膏ボードがしっかり施工されているかも確認します。ただし、石膏ボードが必要なエリアと不要なエリアがあるため、必ずしも「ボードが見当たらない=施工不良」というわけではありません。

建物の傾き

建物の傾きの測定
建物の傾きの測定

建物の傾きは「レーザーレベル」という測定器を使って検査します。上記のように、壁や柱が垂直を示すレーザーの縦のラインとズレがなければ傾きがないと判断できます。また床や窓枠などは、水平を示すレーザーの横のラインとのズレを確認します。

建物は人が作っているものであり、木材などの構造躯体は伸び縮みするため、建物には多少の傾きがあるものです。大事なのは、傾きが基準を超えていないかどうか。新築住宅の目安は1メートルの範囲の中の傾きが3ミリ以下、中古住宅の傾きは6ミリ以下です。この傾きが10ミリを超えると、めまいやふらつきを感じる方が増えるといいます。

1メートルの範囲で6ミリの傾きがあれば、ビー玉が転がることもあるそう。ビー玉も完全な球体でないところから「転がしたところであまり意味がない」と田村さんはいいます。また、水平器を使って局所的に傾きを調べることも、あまり意味がないのだとか。それは、水平方向は3メートル以上、垂直方向は2メートル以上で計測することが推奨されているからです。

傾きで怖いのは「不同沈下によるものです。建物の重みや地盤沈下などによって一部分だけ沈んでしまうと、ドアや窓の開閉に支障をきたしたり、雨漏りの原因になったりすることもあります。中古物件では特に「必ず傾きを計測したほうが良い」といいます。

ベランダ・バルコニー・屋上

ベランダやバルコニー、屋上の劣化や施工不良は、雨漏りに直結することから、検査が非常に重要だと田村さんはいいます。

防水

ベランダ・バルコニー・屋上の検査

ベランダなどの床は、防水仕様になっています。一般的には「FRP」という繊維強化プラスティックで床面がコーティングさていますが、表面にヒビがある場合は要注意。床から雨水が染み込んでしまう恐れがあります。FRPの耐用年数は、10〜15年ほど。FRPではない場合も、耐用年数は同程度のことが多いといいます。

汚れや落ち葉が溜まっていることで、排水機能が損なわれていることもあります。そのような状況で台風やゲリラ豪雨に見舞われてしまうと、居室内に雨水が流れ込んでしまう可能性もあります。

笠木

また、ベランダの手すりの頂点に被さっている「笠木」から雨水が侵入するケースも。笠木を固定するための釘穴や継ぎ目を埋めるためのシーリング剤の劣化部分から浸水し、壁の中や室内に漏れ出してしまう恐れがあります。

シーリング剤の耐久性は、7〜10年ほど。FRPの耐久性と差異があるため注意が必要だといいます。ただし、笠木の中も防水処理がされているため、ただちに重大な欠陥が生じるとは限りません。とはいえ、放置していい状態とはいえないため、防水塗装やシーリングの補修が推奨されるといいます。

べランダの笠木の検査

屋根裏

屋根裏では、次のような部分を確認します。日常生活ではなかなか覗くことはありませんが、重大な劣化や欠陥が現れやすい部分です。

  • 構造躯体の腐食や傾き
  • 断熱材の有無・隙間
  • 接続金物の緩みや取り付け状況
  • 雨漏りの有無

床下

床下で確認するのは、次のような部分です。インスペクターが、ほふく前進しながら検査していきます。

  • 構造躯体の腐食
  • 断熱材の有無・隙間
  • 束のぐらつき
  • 接続金物の緩みや取り付け状況
  • 雨漏り・水漏れ・結露の有無
  • 蟻道の有無
  • 基礎の状態

一戸建ての外回りで見るべきポイント

インスペクションでは、建物内部だけでなく外回りの検査も実施されます。敷地や外壁、外構部分など外回りから得られる情報によって、重大な欠陥が見つかることもあります。

外周り

一戸建ての場合は、外回りから判断できることも多くあります。

境界石

境界石

外回りで特に確認しておきたいのが境界石の有無です。

土地の四隅にあるべきものですが、古い建物がある土地や長く所有者が変わっていない土地などでは、そもそも境界確定していない、あるいは境界石が紛失してしまっていることもあります。その場合には、境界がどうなっているのかしっかり確認したほうが良いでしょう。

水道口径

また、外回りでは水道管の口径も確認できます。口径は、上の画像でいう緑の蓋部分に書かれているもの。この家の口径は「20ミリ」です。

20ミリの口径は今では一般的ですが、古い建物などでは13ミリのものも見られます。13ミリでも水は出ますが、シャワーの出が悪かったり、複数箇所で水道を使うと勢いが弱くなったりすることが懸念されるといいます。二世帯住宅などでは、25ミリの口径も見られます。

水道管の口径

外壁

外壁の劣化は、中古戸建の多くで見られる事象です。しかし、その全てが重大な問題であるとは限りません。

コケ

こちらの写真を見ると、外壁に緑のコケがうっすら生えているのがわかります。コケ自体には大きな問題はありませんが、コケは乾いた環境では繁殖しないため、コケが生えているということは壁面の湿度が強いということ。

コケが繁茂すると外壁の防水機能が損なわれ、水が外壁の中にまで侵入しやすくなってしまうため、高圧洗浄機などで定期的に清掃した方が良いといいます。

ヒビ・亀裂

一方、こちらの写真では、外壁の一部に亀裂が走っていることがわかります。よく見ると、亀裂が入っているのは釘穴の周りです。釘穴の周りは、亀裂が入りやすいもの。割れ目から水分が入ることで、外壁本体の劣化が早まったり、下地剤や構造躯体の腐食にまで進行してしまったりすることも懸念されます。また、外壁材と外壁材の繋ぎ目に施工されるシーリング材もひび割れを起こしやすい部分です。

亀裂が見られれば長く放置せずに、その部分の修繕や外壁塗装、シーリング剤の打ち替えなど適切な処置をすることをおすすめします。

基礎

基礎の化粧モルタルの剥離

こちらの画像では、基礎の表面が割れています。しかし、この状態は「問題ない」と田村さんはいいます。基礎は、表面が化粧モルタルで覆われています。この画像の状態は、見栄えを良くするための表面の塗装が剥がれてしまっているだけ。基礎そのものにヒビなどが見られなければ問題ありません。

ホームインスペクションまとめ

ホームインスペクションは、売主、買主ともにメリットのある検査です。検査のみならず、事象の原因の推測や適した補修方法の提案などもインスペクションには含まれます。今回のレポートは、インスペクションのごく一部です。さくら事務所では、一戸建てなら3〜5時間かけて検査にあたるといいます。

インスペクターによる専門的かつ客観的な検査によって、買主は安心して購入でき、売主は売買後のリスクを軽減できます。安心・安全に不動産を取引するため、あるいは、より好条件で不動産を売却するため、インスペクションの実施を検討してみてはいかがでしょうか。

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この記事を書いた人

亀梨奈美のアバター 亀梨奈美 不動産ジャーナリスト/株式会社realwave代表取締役

大手不動産会社退社後、不動産ライターとして独立。
2020年11月 株式会社real wave 設立。
不動産会社在籍時代は、都心部の支店を中心に契約書や各書面のチェック、監査業務に従事。プライベートでも複数の不動産売買歴あり。
不動産業界に携わって10年以上の経験を活かし、「わかりにくい不動産のことを初心者にもわかりやすく」をモットーに各メディアにて不動産記事を多数執筆。

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