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【前編】心理的瑕疵物件の新たな可能性を切り拓く「オバケ調査」の全貌

人が亡くなった物件。いわゆる事故物件を抱えたオーナーは、家賃の大幅減額や長期空室といった深刻な問題に直面します。従来は「仕方がない」とされてきたこの課題に、独創的なアプローチで挑む企業があります。

株式会社カチモード代表の児玉氏が提供する「オバケ調査」は、夜中の物件に8時間泊まり込み、科学的機材を用いて「異常がないこと」を証明するサービス。15年間の管理会社経験を持つ児玉氏が、なぜこの事業を始めたのか。そして「心理的瑕疵」という心の問題をどのように解決しようとしているのか。前編では、業界初の取り組みの全貌に迫ります。

目次

カチモード設立の背景と問題意識

(株式会社カチモード 児玉 和俊代表取締役)

心理的瑕疵物件を専門に扱う株式会社カチモード。その設立には、15年間の管理会社勤務で培った深い問題意識がありました。事故が発生した瞬間から始まる、オーナーの想像を絶する困難な状況とは何か。そして、なぜ従来の業界常識では解決できないのか。児玉氏の実体験から明かされる業界の真実をお伝えします。

事故物件オーナーが抱える深刻な課題

株式会社カチモード代表の児玉氏は、この問題に正面から向き合う稀有な存在です。

「事故物件になると、どうしても家賃を下げなければいけません。それによって、計画していた運営が成り立たなくなっているオーナーさんたちがいらっしゃるんです」

15年間管理会社で働いた経験を持つ児玉氏が目の当たりにしてきたのは、事故が起きた瞬間にオーナーが絶望的な状況に追い込まれる現実でした。家賃の大幅減額、長期空室、そして最終的には二束三文での売却を余儀なくされるケースが後を絶ちません。

15年間変わらない業界の構造問題

特に印象的だったのは、児玉氏が管理会社の責任者として事故対応を担当していた2022年の体験です。オーナーから「こんなにお金をかけて綺麗に対応したのだから、家賃は下げなくていいよね」と相談を受けた時、ふいに15年前の新人時代に先輩から教わった「今を乗り切りましょう」という言葉を思い出したといいます。

「15年間、オーナーの置かれている立ち位置が全く変わらなかったんです。これが、カチモード設立の決定的なきっかけでした」

業界の構造的な問題に対して、根本的な解決策を提示する企業や仕組みが存在しないことに強い危機感を抱いた児玉氏は、家族の大反対を押し切って起業を決意しました。

「価値を戻す」という発想の転換

社名の「カチモード」は、「価値を戻す」という意味を込めて命名されました。事故物件になったことで減少してしまった価値を取り戻すことを目指す、明確なミッションがそこにはあります。

当初、児玉氏は普通の管理会社や売買業者をやろうと考えていました。しかし、不思議な部屋があることを知っていた経験から、「自分の会社を作るなら、管理や売買をやりながら、そういう部屋が出てきた時にしっかり調べる機能だけは作っておこう」と思ったのです。

しかし、心理的瑕疵という「心の問題」を解決するためには、従来の不動産業界にはない全く新しいアプローチが必要でした。そこで生まれたのが「オバケ調査」という独創的なサービスです。

「オバケ調査」とは何か?

心理的瑕疵という「心の問題」を解決するために生まれた「オバケ調査」。このユニークなサービスの実態について、ネーミングの由来から具体的な調査内容まで詳しく見ていきましょう。

(出典:株式会社カチモード

ユニークなネーミングに込めた想い

「心霊調査」「幽霊調査」といった名称も検討したそうですが、あえて「オバケ調査」という親しみやすい名前を選んだ理由があります。

「心霊・幽霊よりは優しいけれども、逆にその名前で嫌悪感を抱かない。オバケというと、キャラクター的に丸いイメージで、おどろおどろしくないんです」

入居者や購入希望者が「なんで住みたくないか」をヒアリングすると、「なんか出そう」「気持ち悪い」という心理的な抵抗感が大半を占めるそうです。この心の壁を取り除くために、まずはネーミングの段階から心理的ハードルを下げる工夫を施しました。

8時間の滞在調査で行うこと

オバケ調査の核となるのは、夜中の10時から朝の6時まで、児玉氏自身が対象物件に泊まり込んで行う8時間の徹底調査です。

調査内容は多岐にわたります。

  • 映像・音声の記録
  • 電磁波調査
  • 室温・湿度・大気圧の測定
  • サーモグラフィーによる温度変化の確認
  • 騒音調査
  • 赤外線ライトによる体液・血痕の確認

「機械的で客観的な数字で見えるものを測定して、基本的には何もないですということを証明しています」

重要なのは、事故後に「その部屋に泊まったことのある人が存在しなかった」という事実です。管理会社やオーナーも、あえてその部屋では泊まりません。入居者が「あなたが最初の宿泊者です」と言われることの心理的負担は想像以上に大きいものです。

科学的機材による客観的データ収集

調査で使用する機材は、児玉氏が独自に選定・収集したものです。日本にはこのような調査を行う会社がほとんど存在しないため、イギリスの幽霊調査会社を参考にしながら、自分で揃えられる機器を段階的に充実させてきました。

費用は8万円(+消費税)。オーナーにとって、家賃アップの可能性があり、調査費用についても一定期間で回収できる見込みがある現実的な価格設定です。

調査の実態と進化するノウハウ

日本では前例のないオバケ調査は、すべてがトライアンドエラーの連続です。イギリスの事例を参考にしながら、大学教授との連携も含めて、より科学的で精度の高い調査手法を確立してきました。

イギリスの調査会社を参考にした機材選び

当初はカメラの台数も少なく、亡くなった場所など「怪しい」箇所にピンポイントでカメラを向けていたそうです。しかし現在では、部屋全体を網羅的に調査できるまでに機材が充実しています。

興味深いのは、機材の進化が実際の現象解明に役立っているという点です。例えば大気圧計の導入により、当初は対応できなかった「風力はゼロなのに、明らかに奥から涼しい風が来る」という不可解な状況にも対応できるようになりました。

大学教授との連携による科学的アプローチ

現在、児玉氏は物理学の大学教授と連携し、より科学的なアプローチで調査を行っています。この教授はポルターガイスト現象の研究者でもあり、「物理を超える現象」の解明に取り組んでいるそうです。

風力がゼロなのに冷たい風が流れる現象について相談したところ、「大気圧の違いがあるかもしれません。平常時と現状を比べて、気圧が下がっていれば周りから流れてきますよ」というアドバイスを受け、大気圧測定を調査項目に追加しました。

トライアンドエラーで築いた独自手法

日本でこうした調査を行っている人がいないため、すべてがトライアンドエラーの連続だといいます。不思議な現象に遭遇するたび、「これはどうなの?あれはどうなの?」とフィルターをかけていくと、必ずどこかで原因が判明するそうです。

例えば、夜中に「ドンッ」という音が発生したが録音されなかった事例では、騒音計を導入して振動として検知できるようにしました。配管のウォーターハンマー現象などの建物・設計の不備は経験で判別できるそうですが、それでも説明がつかない現象については、新たな調査手法を模索し続けています。

心理的瑕疵を巡る人間ドラマ

オバケ調査の真の価値は、単なる調査結果にとどまりません。ご遺族、オーナー、入居者。それぞれが抱える心の問題に向き合い、前向きな解決策を提示する点にあります。

ご遺族との向き合い方

オバケ調査で特筆すべきは、ご遺族との関わり方です。多くの人が事故物件を「怖いもの」として捉える中、児玉氏のスタンスは明確に異なります。

「ご遺族の方に関しては、自分の身内が亡くなっている状況なので、怖いわけがないんですよね。なんなら出てきてくれよという気持ちが前面に出てきます」

この視点の違いは、児玉氏の仕事における重要な特徴です。怖がるのではなく、もし何かがいるのであれば「いていいですよ」というスタンスで調査に臨みます。

月命日の手合わせから解放されたお父さん

特に印象的だったのは、関東北部の物件での出来事です。娘さんが自殺された部屋の調査を行い、「異常なし」の結果を報告したところ、ご遺族のお父さんから意外な言葉をかけられました。

「ありがとう」

その理由を尋ねると、こう語ったそうです。「実は月命日に手合わせに行っていましたが、児玉さんの調査で何もなかったということは、そこにいなかった、成仏したということが分かってよかった。これからは仏壇を拝むだけにします」

東北からわざわざ車で月一回訪れていたお父さんにとって、オバケ調査は心の整理をつける機会にもなったのです。

「怖い人ではない」という視点の転換

児玉氏が一貫して伝えるのは、「基本的には怖い人ではない」というメッセージです。出てくるとしたら理由があるはずで、お祓いや供養ではなく、まずは受け入れることから始まります。

この姿勢は、ご遺族にとって亡くなった家族を「オバケ」扱いされることへの抵抗感を和らげる効果もあります。当初は「俺の娘はオバケってことなのか」と怒られることもあったそうですが、「大切な娘さんが気持ち悪がられています。それをなんとかしたい」という説明により、協力を得られるようになりました。

調査結果が生み出す付加価値

オバケ調査の結果は、関係者すべてにとって具体的なメリットをもたらします。「異常なし」でも「異常あり」でも、それぞれに価値を見出す柔軟な発想が、このサービスの大きな特徴です。

「異常なし」証明書の効果

調査で異常が認められなかった場合、カチモードでは調査報告書・証明書を発行します。この書類は事故物件に対する付加価値となり、家賃回復の効果が期待できます。

希少価値としての「異常あり」物件

興味深いのは、本当に「異常」が検出された場合の対応です。児玉氏は、そうした物件を「希少価値がある」と捉え、カチモード自身が借り上げることもあります。

「そんな希少な部屋って世界中探しても本当にないので、それはそれで、その部屋の特殊性、希少性で価値が上がるんです」

異常がない部屋には付加価値を、異常がある部屋には希少価値を。どちらの結果でも、物件の価値向上につなげる柔軟な発想が光ります。

オーナー・入居者・ご遺族、それぞれへのメリット

オバケ調査は、関係者すべてにメリットをもたらす仕組みとして設計されています。

オーナー:家賃の回復、売却価格の向上
入居者:安心して住める環境の確保
ご遺族:心理的な区切りをつける機会

「その部屋にまつわる関係者の方たちの話を聞きながら、その部屋に前向きな流れをつけることをやっています」

これこそが、オバケ調査の真の価値なのかもしれません。単なる調査にとどまらず、心理的瑕疵物件を巡る人々の心の整理を手助けする、総合的なサービスとして機能しています。

※後編では、具体的な売却戦略や業界変革への想いについて詳しくご紹介します。

児玉氏はYouTubeでも情報発信されています。ぜひご覧ください!

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この記事を書いた人

元信託銀行員。宅建士・ 2級FP技能士をはじめ、複数の金融・不動産資格を所持。それらの知識をもとに、「初心者にもわかりやすい執筆」を心がけている。2児の子育て中でもあり、子育て世帯向けの資産形成、女性向けのライフプラン記事を得意とする。

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