湾岸都市として人気の豊洲を知る人は多くても、「住吉駅」と聞いて耳なじみのある人はあまり多くないのではないでしょうか。
しかし住吉駅~豊洲駅間の有楽町線延伸工事がいよいよ始まったことにより、沿線エリアが注目を集めています。
この記事では、延伸計画と現状、沿線の今後の再開発の構想と合わせて今後のマンション価格についても解説します。
有楽町線の延伸計画とは?概要とスケジュール
豊洲~住吉エリア再開発の要となるのが、現在埼玉県和光市と東京都江東区を結ぶ東京メトロ有楽町線の延伸計画です。
まずは、延伸計画の概要について見てみましょう。
豊洲~住吉間の新ルートと新駅計画
豊洲~住吉間のルートは、埼玉県和光市の「和光市」駅 から池袋や永田町、銀座などの都内主要駅を通り東京都江東区の「新木場」駅までを結ぶ東京メトロ有楽町線の一部として延伸されるものです。
豊洲駅は終点となる新木場駅の2駅手前にあり、そこから北方向に延伸し住吉駅までを結びます。
一方、延伸部分の終端となる住吉駅は東京メトロ半蔵門線と都営新宿線の2線が通る駅です。
「渋谷」駅から大手町を経由し東京スカイツリーの最寄り駅である東京都墨田区の「押上」駅までを結ぶ半蔵門線では、住吉駅は終点の押上駅の2駅手前に位置します。
また、新宿駅から千葉県市川市「本八幡」駅を結ぶ都営新宿線では、住吉駅は本八幡駅の8駅手前に位置します。
豊洲駅と住吉駅の間には、「(仮称)枝川」「東陽町」「(仮称)千石」の3駅が設置予定です。
東陽町駅は「中野」駅と千葉県船橋市の「西船橋」間を結ぶ東京メトロ東西線にある既存の駅であり、ほかの2駅はそれぞれ枝川ニ丁目付近と千石ニ丁目付近に新設される予定になっています。
したがって、今回の豊洲〜住吉間のルートは都内を横断する有楽町線・東西線・半蔵門線・都営新宿線の4線を23区東部で南北に結ぶ形で延伸される計画です。

いつ開通する?工事スケジュールと最新情報
豊洲〜住吉の延伸区間は2022年3月に鉄道事業の許可を受け、2024年6月に都市計画決定が告示されたことにより事業が動き始めました。
同年の2024年11月上旬に着工され、現在は2030年代半ばの開業を目指し工事が進んでいます。
しかし10年程度の期間を見込んだ工事の初年度であることから、まったく兆候のない区間も多いのが現状です。
また、鉄道路線延伸の開業が延期される可能性も考えられます。例えば、神奈川県内を走る相模鉄道が近年延伸によりJR・東急線と接続し直通運転を開始しましたが、用地取得の遅れや軟弱地盤への対策などによりどちらも最終的には4年程度開業が延期されています。
延伸の背景|なぜ豊洲~住吉間が選ばれたのか
下の東京都区部周辺の路線図を見ると、西部〜中央部には鉄道路線が張り巡らされているのに対し、千葉県と接する東部には鉄道路線、特に南北方面の路線が不足しているのが一目瞭然です。
特に東陽町がある江東区で顕著であり、都営バス頼りの南北方向の移動は区の大きな課題となっていました。さらに、千葉方面の移動が東西線・総武線に集中してしまうことから来る混雑と代替ルートがない脆弱さも問題でした。
そのため江東区は長年にわたり区内の南北方向の交通手段を強化することを切望しており、今回の延伸はこの要望が実現したものです。
江東区政の中心である東陽町を経由し、豊洲と住吉をつなぐことで鉄道空白区間を埋めつつ半蔵門線から都内だけでなく千葉県北部にもつながる交通ネットワークが完成します。
豊洲〜住吉の延伸は東京都東部の行政・交通の連携強化だけでなく、スカイツリーのある押上から湾岸部の人気都市である豊洲までの観光資源の一体化による経済効果も期待されています。
有楽町線延伸で変わる交通アクセス
住まいにおいて、住環境と並び重要なのが交通アクセスです。
次に、有楽町線延伸で沿線の交通アクセスがどう変わるのかについて解説します。
豊洲~住吉エリアの鉄道アクセスの変化
有楽町線延伸により、豊洲〜住吉間の移動時間は乗り換えがなくなり、約20分から約9分と大幅に短縮されます。
また、下の図は豊洲〜住吉エリアに接続する有楽町線・東西線・半蔵門線・都営新宿線の4路線の大まかな行先を示したものです。
もともと鉄道路線が張り巡らされている23区内では、延伸により移動時間の短縮効果があるのは主に南北方向であり既存の豊洲・東陽町・住吉3駅の都内主要駅への所要時間が大きく変わるわけではありません。
しかし乗り換えやすい路線が増えることにより、都内のみならず千葉方面への移動が容易になると考えられます。延伸で移動の選択肢が増えることにより期待されている効果の一つが、現在問題となっている臨海部の開発に伴う急激な人口増加による東西線・総武線の混雑緩和です。
また、有楽町線の豊洲~亀有間、および半蔵門線の押上~松戸間の延伸構想についても、江東区のホームページで確認することができ、これらが実現すれば、延伸後のさらなる発展が期待されます。
※取材時点(2025年2月)の情報に基づいており、今後変更される可能性があります。

他の交通機関との接続|半蔵門線やバスの利便性
移動時間短縮よりも移動の快適性向上が主な効果である既存3駅に対し、新設予定の(仮称)枝川駅、(仮称)千石駅付近では交通利便性が大きく向上します。
鉄道空白地帯である両駅の周辺では、現状南北方向に移動するためにはバスや自転車が主な交通手段です。
もともと東陽町~豊洲間、東陽町~住吉間はバス路線があるものの、豊洲から住吉に直接行くバスはなく東陽町や門前仲町で乗り換える必要があります。
また、徒歩で近くの既存駅に移動するにも枝川駅付近から豊洲駅までは約16分、千石駅付近から住吉駅までは約12分かかり、徒歩圏とはいえあまり交通利便性が高いとはいえません。
しかし延伸後は5分程度の乗車で移動できるようになるため、新駅周辺の鉄道アクセスは大きく改善する見込みです。
豊洲~住吉エリアの再開発計画|今後のまちづくり
これからの開発が期待される住吉だけでなく、すでに湾岸都市として開発され人気の豊洲でもさらなる開発計画が控えています。
交通の次は、豊洲〜住吉エリアの現状と再開発について見てみましょう。
豊洲エリアの再開発計画(新規商業施設・オフィス開発)
豊洲はかつて造船所や軍の施設、その後新東京火力発電所、東京ガス豊洲工場が操業しエネルギー供給地として栄えた地域でした。
1950年代の豊洲ふ頭の埋立から賑わいが生まれ、1980年頃から現在の国際拠点としての顔を持つ臨海都市としての再開発が行われるようになりました。
豊洲の街づくりの大きな特徴が「安全」と「環境」です。複数のエネルギー源確保による安定した電力確保や電線地中化のほか、災害時に活用できる拠点・設備の整備など災害に強い安全な街づくりが進められています。
街の基盤作りとともに、商業施設やマンション、オフィスの開発も活発です。
2021年には豊洲駅から徒歩4分の好立地に地上48階建て、総戸数1152戸のタワーマンション「ブランズタワー豊洲」が竣工しています。
さらに2022年には豊洲6丁目地区で開発を進めてきた複合開発街区「ミチノテラス豊洲」にアーバンリゾートホテル「ラビスタ東京ベイ」が竣工し、オフィス棟、都市型道の駅と合わせて街区全体が完成しました。
再開発が進められてきた豊洲ですが、今後も見逃せない開発計画が続きます。東京ガスの中期経営計画によると、2025年に新豊洲エリアで自社主導の「循環型未来都市」としての大規模開発に着手することが明らかになっています。
さらに、IHIと三菱地所が最後の大規模再開発として進めているのが「豊洲セイルパーク」です。
オフィス、店舗、シェア企業寮などが入る2棟からなるこの施設は、ららぽーと豊洲の隣接エリアに2025年の夏頃に開業予定です。

住吉エリアの都市計画と再開発プロジェクト
住吉駅は、現在でもスーパーやドラッグストアが入る「ビエラ江東橋」、ニトリやホームズ、ライフなど徒歩圏に生活密着施設が揃います。
さらに少し足を延ばせば約100の専門店とイトーヨーカドーで構成される「アリオ北砂」や、「錦糸町アリオ」「TERMINA」などのショッピングモールも利用できる商業施設が充実した環境です。
それだけでなく駅のすぐそばには広々とした敷地で水と緑を楽しめる「猿江恩賜公園」をはじめ多くの公園があり住環境も良好なエリアです。
2025年3月現在、江東区としての住吉エリアの街づくりはこれから街の方向性を話し合う段階です。
しかし民間ではいくつか再開発に伴うマンション建設の動きがあり、住友不動産も全149戸のマンション「シティテラス住吉」を2023年1月に竣工、2026年1月に引渡し予定です。
新駅周辺の街づくり|どんな施設ができる?
(仮称)枝川駅・(仮称)千石駅ともに現状具体的な再開発の動きは起こっておらず、今は大まかな方向性が決まっているのみの段階です。
(仮称)枝川駅の周辺は、運河に囲まれている立地です。
街づくりの方向性として、水と緑が豊かな立地を活かした賑わいや憩いの空間や商業機能の創出を目指しています。
現在は地域住民の意見募集や説明会を経て、2026年度末の街づくり方針の策定を目指した取りまとめに入る段階です。
一方、(仮称)千石駅周辺は公園や学校が周辺にある住宅街という立地です。
その落ち着いた環境を活かし、(仮称)千石駅周辺では商店街を中心として地域コミュニティを活性化させる方向性で街づくりが進められる予定です。
(仮称)千石駅周辺は令和6年度からまちづくり協議会の活動支援を行い、令和7年度末の方針策定に向けた取りまとめを行います。
また(仮称)千石駅周辺でもマンション建設の動きがあり、JR九州の基幹マンションブランド「MJRシリーズ」が東京初進出し「MJR深川住吉」を2024年2月に竣工しています。

有楽町線延伸とマンション市場への影響
過去10年間にわたる豊洲・住吉エリアの中古マンション平均成約坪単価は、東京23区全域で価格が上がったことに連動して高騰しました。
住吉駅周辺平均成約坪単価

住吉区周辺では、高騰しながら推移していましたが、2024年以降の価格は高止まりしている状況です。
住吉駅周辺に限らず23区全域でいえることは、中古マンション価格は日経平均すなわち景気に連動する形で高騰しています。
また、住宅ローン金利が低い状態が購入需要を促進していたことも共通して言えることです。さらには、コロナ化で中古マンションの供給量が減少し、相対的に需要が高まったことで価格を押し上げました。
豊洲駅周辺平均成約坪単価

豊洲駅周辺の中古マンション相場は、いまだに強い勢いで高騰し続けています。上記の理由に加え、湾岸タワーマンションに対する過剰な需要が発生しているためです。
有楽町線延伸でマンションを買うべきか?
もし購入を検討しているのならば、早めに買うことをお勧めします。
基本的に、利便性が向上すればそれに伴って需要が発生するので、価格が上昇する要因になります。
例えば、駅近物件は価格が高いのをイメージするとわかりやすいでしょう。
住吉駅周辺や新駅の建設予定エリアでは、他の駅と比べて価格は伸びていないので、先ほど述べた理由による価格の上昇を考えると、将来的には割安エリアになります。
一方、東陽町や豊洲は現時点でもすでに価格が高騰しています。これには、過剰な需要とマンション市場の過熱が影響しており、その結果、価格の変動が大きくなっています。
そのため、価格がさらに上昇する可能性があるものの、購入時に価格が高すぎると、将来の売却時に値下げを余儀なくされるリスクが高まることも考慮する必要があります。

投資物件としての魅力|賃貸需要の変化
投資物件としては、将来的な収益の増加に繋がる要素を見越した投資判断が重要です。
特に延伸が予測されるエリアでは、インフラの整備によって賃貸需要が増加する可能性があります。
延伸後の新駅周辺はアクセスの改善により、利便性の向上が期待され、住みやすい環境として賃貸需要が高まるでしょう。
このようなエリアでは、賃貸価格が上昇する一方で、物件の実需価格(自分が住むために購入する価格)はそのタイミングよりも前に上昇することが考えられます。
賃貸需要が増える前に、実需価格の上昇に伴い投資物件の価格が高くなり、その後賃貸価格が遅れて上がるため、購入時に比較的低価格で投資することが利益を確保するポイントになります。
また、利回りについては、実需価格が上昇すれば、当然のことながら利回りは低下します。
したがって、収益還元を考慮すると、利回りが下がった後に賃貸価格が上昇することを見越して、早い段階で投資することが重要です。
このタイミングで住吉や新駅周辺の物件を購入することで、将来的な賃貸需要の増加を見込み、安定した収益を得ることが可能となります。
豊洲~住吉エリアの再開発に関するよくある質問
最後に、豊洲~住吉エリアの再開発に関するポイントとなる疑問について簡単にまとめました。
まとめ
有楽町線の延伸により、豊洲~住吉エリアは単なる点と点の接続にとどまらず新駅も含めた面として一体化した発展が期待されています。
国際的・都会的な豊洲の街と住吉の下町の落ち着いた街並みが鉄道でつながり、東京東部に新たな価値が生まれます。再開発で進化する豊洲~住吉エリアは住まいとしての魅力だけでなく将来を見据えた不動産投資の対象エリアとしても注目です。
監修/福嶋総研