今や、3組に1組が離婚する時代。離婚に際してご夫婦間で問題になるのは、財産分与や離婚後のお住まいのこと。とくに、持ち家がある場合には「名義変更」で大変苦労される方が多いようです。
そこですみかうる編集部は「不動産×離婚」のプロである一般社団法人不動産あんしん相談室代表理事の神田加奈さんに離婚による家の名義変更方法について聞いてきました!
一般社団法人不動産あんしん相談室
代表理事・代表コンサルタント 神田 加奈
昨今の不動産トラブル増加傾向を受け、自身の今までの苦労や経験で、不動産の安心・安全な取引実現に貢献したいと考え、2017年末に「不動産あんしん相談室®」を開設。2018年7月に商標登録し、2019年6月「一般社団法人不動産あんしん相談室」を設立。離婚問題をはじめ、不動産で困っている人を“正しい知識とノウハウ”で後悔しない選択に導いている。
保有資格:宅地建物取引士・公認不動産コンサルティングマスター・二級ファイナンシャルプランニング技能士・住宅ローンアドバイザー・ADR調停人(競売)
離婚に伴って家の名義変更をしたいというニーズは多い
離婚に際して家の名義変更をしたいというケースは、ご夫婦どちらかに「住み続けたい」という意向があるからなのでしょうか?
そうですね。離婚後も家に住み続けたいというニーズは多いと思います。
お子さんがいらっしゃる場合はとくに「生活環境を変えたくない」「転校させたくない」ということで妻子が住み続けるケースが多いですね。
また離婚時に奥様の名義にしておかないと、将来、子どもの名義にできないのではないかと考える方も非常に多いです。
そして親御さんと住んでいる場合も、やはり住み続けたいと考える方が多いですね。
離婚後、住み続ける人と名義人が違うという状況を解消したいということで名義変更を検討されるわけです。
離婚は夫婦間だけの問題ではありませんもんね……!
家の名義変更というのは、簡単にできるものなのでしょうか?
「家」の名義変更だけであれは、実はそれほど難しい話ではありません。
「家」の名義変更
具体的には、どうやって家の名義変更すればいいのでしょうか?
「財産分与」によって家を奥様の単独名義にすることができます。かかる費用は、登録免許税と司法書士費用、不動産取得税です。
原則的には、財産分与によってもらった資産に対して贈与税が課税されることはありません。しかし、家の価値や資産状況によっては贈与税が課税されることもあります。
それは、財産分与額として家の資産価値が高すぎるというケースですか?
はい。その場合には「高すぎる」部分だけ贈与税の対象となるわけですね。
ただ婚姻期間が20年以上のご夫婦であれば、居住用不動産の贈与には最大2,000万円の配偶者控除があります。
住宅ローンが残っていない家の名義変更は”比較的”簡単ではあるものの、弁護士や税理士のサポートは受けられたほうがよろしいかと思います。
住宅ローンの名義変更をせずに元夫名義の家に妻子が住み続けるにはリスクも……
名義変更で苦労されるのは「家」の名義ではなく「住宅ローン」です。 住宅ローンの名義変更は、一筋縄ではいきません。
ただ実は、必ずしも住宅ローン名義を変更しなければならないということはないんです。元夫名義の住宅ローンが残る家に、元妻と子が住み続けるケースも少なくありません。
では、離婚に伴って住宅ローンの名義変更をする必要はないんですか?
いえ、やはり名義変更ができるのであればしたほうがいいでしょう。ただ、実際にはできないケースが多いということです。
たとえば、元夫が住宅ローンの名義人、居住者が元妻と子だとしましょう。この場合、母子の生活は「元夫が住宅ローンを支払い続けてくれる」という前提のうえに成り立っています。
つまり、なんらかの理由で住宅ローンの返済が滞れば、妻子の住むところは保障されなくなってしまうんです。具体的にいえば、わずか数ヶ月の住宅ローン滞納で家は差し押さえられ、それでも返済がなければ最終的には競売にかけられてしまいます。
元夫が新しい家庭を築く可能性もありますし、そもそも離婚後は元夫自身が住むところも必要ですから二重の負担になってしまうわけです。最初は支払うと約束してくれていた住宅ローンも、だんだんと支払ってくれなくなり、返済が滞ってしまって……というケースは決して少なくありません。
住宅ローンの名義人に滞りなく返済をしてもらうための取り決めのようなものを、離婚前に約束することはできないのでしょうか?
養育費や財産分与として住宅ローンを支払い続けてもらう……という取り決めはできます。ただ取り決めがあったとしても、実際に払えるか払えないかは別問題ということですね。
金融機関は、規定の期間、住宅ローンの返済がなければ抵当権を行使して不動産を差し押さえます。住んでいる人が違うからとか、取り決めと違うからといって猶予してくれるようなことはありません。
取り決めがあろうがなかろうが、意図的であろうか仕方なくであろうが、元夫の住宅ローンの返済が滞れば、住まいを失ってしまうおそれがあるのです。
ですから、離婚してもなお元夫との縁が切れない、そして元夫の返済ありきで住まいを維持するということが問題になるわけですよね。
元夫に住宅ローンを返済し続けてもらうこと自体は問題ないのでしょうか?
返済を続けてもらえれば、住み続けることはできます。
ただ、奥様のほうはいわゆる「母子手当」が受給できなくなる可能性があります。
母子手当……「児童扶養手当」のことですね?
おっしゃる通りです。元夫が妻子の住む家の住宅ローン返済を続けているとなると、援助されているとみなされ、一部が元妻の所得とみなされてしまうんです。
養育費にもいえることなのですが、具体的には「8割」が所得とみなされてしまいます。母子手当には所得制限がありますので、住宅ローンや養育費の金額次第では母子手当が支給されない、あるいは満額支給されない可能性があるということです。
離婚で住宅ローンの名義変更は可能であるが現実的には難しい
離婚後に、住宅ローンの名義人と住む人が異なるようになるのであれば、名義変更をしておいたほうが安心ですね……。
そうなりますが、現実的には難しいことが多いと思います。
弊社に多いご相談は、やはり「離婚後も子どもと一緒にこの家に住み続けたい」というお母様からです。現状、家の名義も住宅ローン名義も夫。あるいは夫婦の共有名義の家を妻の単独名義にしたいということですね。
「自分が住むなら住宅ローンの名義も自分にすればいいんだ!」と思って皆さんご相談にいらっしゃるのですが、実際にはできないケースが非常に多いんです。
なぜ、住宅ローンの名義変更がそこまで難しいのでしょうか?
単刀直入に申し上げれば、奥様に住宅ローンの名義人になれるだけの収入がないケースが多いということです。
もちろん奥様の名義だけで住宅ローンが組めるのであれば、住宅ローンを借り換えたり、奥様がご主人様から家を購入したりして住宅ローン名義を奥様単独にすることは可能です。後者については、名義変更ではなく不動産売買になりますが。
ただやはり、専業主婦やご主人の扶養内で働かれている方にとっては難しいと言わざるを得ません。
連帯保証人から外れるのも「お金の問題」
「名義を変更したい」だけでなく、離婚に伴って「連帯保証人から外れたい」という奥様も多いことと思います。連帯保証人から外れるのも、容易ではないのでしょうか?
連帯保証人から外れるのもまた、お金の問題になってきますね。
ご主人が主債務者で、奥様が連帯保証人、あるいは連帯債務者となっているということは、住宅ローンを組むときにご主人と奥様の収入を合算して審査しています。この場合のほとんどが、ご主人の収入だけでは審査が通らなかったということになります。
つまり、奥様が連帯保証人から外れるためには、ご主人単独で住宅ローンを返済していけると金融機関に認めてもらう必要があるわけです。
住宅ローンを組んだ当時よりご主人の収入が上がっている……あるいは住宅ローンの残債を減らすことも有効ですね。
奥様が連帯保証人、あるいは連帯債務者から外れるからには、その分を補填する必要があるということですね。
弊社のお客様で、以前、こんなケースがありました。
収入合算における奥様の収入の割合は、ご主人の1/10ほど。離婚後、ご主人が住み続けるにあたって、奥様を連帯保証人から外したいというご相談でした。
このときは約600万円を一括返済することで、ようやく奥様を連帯保証人から外すことを認めてもらいましたね。 ご夫婦の間にお子さんはいらっしゃらず、このとき600万円補填したのは「自分の都合で離婚するのであり、なおかつ住み続けるのも自分」ということでご主人様でした。
ただこのようなケースは稀ですね。資金力があれば別ですが、奥様を連帯保証人から外すという選択ができるご夫婦は決して多くはないでしょう。
住宅ローン名義を変更するのも難しい、そして連帯保証人や連帯債務者から外れることも現実的には難しいからこそ、名義を変えずに妻子が住み続けるケースが多いのですね。
名義変更以外の選択肢①リースバック
住宅ローンの名義変更ができなければ、元夫に住宅ローンを返済してもらいながら家に住み続けるしかないのでしょうか?
1つだけ、住宅ローンの名義を変えられないという状況において「元夫の援助なし」「家に住み続ける」……という2つの条件を満たせる方法があります。
それは、リースバックです。リースバックとは、不動産売却後、買主と賃貸借契約を締結することで、引き続き家に住める方法です。
なるほど。第三者に家を買い取ってもらって、妻子は買主に家賃を支払って家に住み続けるということですね!
はい、そうです。リースバックなら、将来的に家を買い戻すこともできるんですよ。
お母さん、あるいはお子さんが住宅ローンを組めるようになったら買い戻すというケースもあります。
ただリースバックにおける賃料は、周辺相場と比較して割高です。
1つの目安ですが、将来、買い戻すのであれば5年以内と考えると良いでしょう。やはり10年も20年も賃貸していたら、賃料がもったいないので。
将来、買い戻せるというのは、お子さんがいらっしゃって離婚される方にとって嬉しいですね!
ただ「買戻し特約」が付けられる会社と付けられない会社があるので注意が必要です。
将来、買い戻せると思ってリースバックしたにもかかわらず「できません」なんてことになってしまったら取返しがつきませんからね。契約時には将来、買い戻したい旨をしっかり伝え、 リースバックの契約内容をよくよく確認することが大切です。
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名義変更以外の選択肢②家の売却
家を売ってしまう……というのも、すっきりしていいのかなと思うのですが、離婚とともに家を売却される方は少ないのですか?
いえ、そんなことはありませんよ。個人的にも「売却」が、離婚時も離婚後も、お互いもっともすっきりできる方法だと思います。
お子さんがいらっしゃらないご夫婦は、離婚とともに家を売却されることも多いですね。
また、必要に迫られて家を売却されるご夫婦もいらっしゃいます。たとえば、家を購入したときにご両親に援助してもらっていたり、土地がご両親のものだったりするケースです。
すぐに家が売れればいいと思うのですが、必ずしも住宅ローンが完済できるとは限りませんよね?
おっしゃる通りです。とくに住宅ローンの目減りが少ない状況、たとえば家を購入して間もないときは、住宅ローン残債が家の価値を上回る「オーバーローン」の状態も少なくありません。
オーバーローンの家を売却するには「任意売却」か足りない部分の現金を捻出するしかありません。
任意売却とは?
任意売却は、住宅ローンを借りている金融機関に特別な許可をもらって行う不動産売却です。特別な許可というのは、住宅ローンが残ったままの売却を承諾してもらうということですね。
本来であれば、住宅ローンの完済は家を売るうえで絶対条件なんです。住宅ローンが残っているということは「抵当権」が家に設定されているということですからね。
任意売却では、金融機関に抵当権を特別に抹消してもらうことにより、住宅ローンを完済せずに家の売却が可能となります。
離婚で任意売却される方って多いのでしょうか?
そうですね。離婚以外のご売却と比較すると「なんとしてでも売りたい」という思いが強いですから、数は少なくありません。
ただ、任意売却は「資産整理」ともいえます。任意売却すれば個人の信用情報に傷がつくことになります。それが嫌ということで、任意売却を避ける方もいらっしゃいます。
オーバーローンの家ですから、売却後も債務は残るんですよね?残った債務を返済していくのは、どなたになるのでしょうか?
基本的には、住宅ローンの名義人が残った債務を返済していかなければなりません。
ただこれは、債権者が返済を求めるのがローンの名義人ということ。結果的に、残った債務をご夫婦が持つその他のご資産と相殺して財産分与することもあります。
たとえば残った債務が300万円の場合、ご夫婦で所有されている300万円の資産価値がある車や家財など、その他の資産と相殺するということです。
家の売却は「離婚前」「離婚後」?
任意売却含め、家の売却は離婚の「前」と「後」どちらが良いのでしょうか?
できれば、離婚の前がいいと思います。
ご夫婦で住んだ家です。たとえどちらか一方の単独名義だとしても、話し合いながら売却していかなければなりません。離婚後、一切、連絡が取れないなんてことになれば、売れるものも売れませんからね。
離婚前は家を売ることで同意していたとしても、離婚が成立した途端にどちらかが心変わりしてしまう……といったこともよく聞かれることです。
離婚の前に話し合いがうまくいくとも限りませんよね。こういった場合はどうすればいいのでしょうか?
こればかりは、話し合いを続けるしかないとしかお答えできませんね……。
状況に応じて、裁判所や弁護士の力も借りて、徐々にでもお互いの折り合いがつくところを模索していかなければなりません。離婚後に家を売却するにしても、離婚前に売却に関する取り決めは書面に残しておかれるべきでしょう。
離婚に伴うすべての選択は、結局は何を優先させるか次第です。「家に住み続けたい」これを最優先に考えているのか。「離婚後は完全に夫婦の縁を切りたい」なのか。離婚するご夫婦、両者の希望をすべて満たすことはできませんからね。
離婚時、住宅ローンが残っている家があるときにまずすべきこと
・夫が住宅ローン返済を続けて妻子が住み続ける
・住宅ローン名義を妻にする
・リースバック
・家を売る
・オーバーローンなら任意売却
ここまで様々な選択肢を教えていただきましたが、まず離婚する夫婦がすべきことはなんなのでしょうか?
家の住宅ローンが残っていれば、まずすべきなのがローン残債と家の価値の比較です。
要は、住宅ローン残債が家の価値を下回っている=「アンダーローン」なのか、それとも住宅ローン残債が家の価値を上回っている=「オーバーローン」なのかを知るということです。
問題なく売れる「アンダーローン」であれば売却のハードルは下がりますが「オーバーローン」なら、先ほど申し上げた通り任意売却しなければなりません。これは、売るか売らないかの判断にも大きく関わってくるはずです。
まず相談すべきなのは、弁護士なのでしょうか?それとも不動産会社ですか?
判断が難しいところですが、不動産にこだわりがないのでれば弁護士でしょうか。ただ不動産のややこしいことには、弁護士は対応できません。
一方で、不動産会社は不動産売買の専門家ですが、離婚に伴う財産分与などのことはわかりません。
ですから、ここでも優先順位をまずつけることが大切だと思います。
家を売るかどうかまず決めたいのであれば、家の価値を知るために不動産会社に査定してもらうのが良いと思います。
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査定をしてみて、それでもどうするか判断に迷う……家をどうしても残したい……ということであれば、弊社のような離婚など不動産トラブル専門の不動産業者に相談していただくのが良いと思います。
一般社団法人不動産あんしん相談室は、弁護士・税理士・司法書士など全国の士業と提携しておりますので、相談者様がもっとも優先したいことをヒヤリングして適切な専門家をご紹介させていただけます。
家・住宅ローンの名義変更だけが離婚時に考えられる選択ではない
- 離婚で「家」の名義変更をするのは比較的容易
- 名義変更が難しいのは「住宅ローン」
- 住宅ローンを名義を変えないことでリスクもある
- 住宅ローンの名義変更および連帯保証人・連帯債務者から外れるのにもお金の問題が
- リースバックなら住宅ローンが組めない・名義が変えられない状況でも妻子が住み続けられる
- 家を売却する選択肢も。住宅ローンが完済できない家は任意売却
- まずは家の価値の把握を
離婚に際し、家の名義変更をすることは可能です。しかし、住宅ローンの名義変更は、新たに名義人となる人の収入次第。また、連帯保証人・連帯債務者から外れるのも容易ではありません。
現実的には、名義変更をせずに住宅ローン名義ではない妻子が住み続けるケースは非常に多いといいます。それには、一定のリスクも。そのため、リースバックや家の売却も併せて検討してみましょう。
離婚することになったら、まずすべきなのは家の価値を把握することです。マンションの査定は、最大6社の査定額が比較できるマンションナビをどうぞご活用ください。
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