前編では、株式会社カチモード代表・児玉氏による革新的な「オバケ調査」の全貌をお伝えしました。後編では、心理的瑕疵物件の売却における深刻な問題と、それに対する児玉氏の具体的な解決策を詳しく探ります。また、業界全体の変革に向けた児玉氏の想いと今後の展望についても迫ります。
心理的瑕疵がマンション売却に与える衝撃
心理的瑕疵物件の売却において、オーナーが直面する現実は想像以上に厳しいものです。家賃の減額が資産価値に与える影響、そして買取業者の利益構造を理解することが、適切な判断の第一歩となります。
3000万円が500万円に?価格下落の仕組み
具体的な事例で価格下落のメカニズムを見てみましょう。
「例えば家賃10万円の分譲マンションの一室で事故があったとします。地域によっては数千円の減額で済む場合もありますが、多くは2割から3割減らすことになります」
10万円の部屋が7万円になった場合、年間の減収は36万円。この地域の利回りが3%だとすると、収益還元法により売却価格は1,200万円下がることになります。さらに、事故後の特殊清掃や全面リフォームで400〜500万円の費用が発生すれば、オーナーにとって売却は現実的な選択肢ではなくなってしまいます。
資金状況と運用方法を総合的に判断する
価格下落のメカニズムを理解した上で、オーナー自身の資金状況と今後の運用方法をよく考えることが大切です。今すぐ売却するのか、これまで通り賃貸運用を続けるのか、それとも、しばらく賃貸運用を続けた後に売却するのか。感情的にならず、冷静に総合的な判断をしていただきたいと思います。
困った時や迷った時には、カチモードまでお気軽にご連絡ください。
マンションならではの心理的課題
心理的瑕疵物件の問題は、戸建てとマンションでは大きく異なります。マンション特有の課題を理解し、適切な対策を講じることが成功の鍵となります。
戸建てとは異なる「周りの目」問題
マンションの場合、戸建てとは根本的に異なる課題があります。
「戸建ての場合は家全体が自分のものですが、マンションだとドアを開けて向かい合って『こんにちは』する場合があります。その部屋が事故物件だというのは、周りの人たちは知っているわけです」
近隣住民は新しい入居者を「事故物件に住み始めた人」として認識し、無言のうちにも特別な視線を向けることがあります。入居者自身は気にしないつもりでも、周囲の目が気になって心理的な負担となるケースが多いのです。
近隣住民への影響と対策
さらに複雑なのは、隣接する部屋への影響です。児玉氏が体験した3階建て共同住宅の事例では、中央の部屋で事故が発生した際、左右の部屋の入居者が更新時に家賃減額を要求してきたそうです。
「隣の事故が起きた部屋は4万8,000円で決まったみたいじゃないですか。僕の部屋の家賃は6万6,000円です。5万円にしてください」
このような「足元を見た交渉」により、事故物件以外の部屋まで収益性が悪化するリスクがあります。結果として複数の部屋が空室になり、オーナーの経営を圧迫する事態も発生しうるのです。
共用部分の印象管理の重要性
マンションでは共用部分の印象管理も重要な要素です。
「事故物件の運用に関しては、普通の部屋だったら気にならない汚れでも、先入観があるからこの汚れももしかしたら!と思っちゃうんです」
外壁の雨だれによる汚れ、乱雑な自転車置き場、破損したメールボックスなど、通常なら見過ごされる要素も、事故物件では疑いの目で見られてしまいます。そのため、共用部分の清掃や修繕により第一印象を改善することが特に重要になります。
革新的な「100万円チャレンジ」戦略
カチモードの最も画期的な取り組みが「100万円チャレンジ」です。心理的瑕疵を「嫌なもの」から「楽しみなもの」に変えてしまう、まさに目からウロコのアイデアとなっています。
心理的瑕疵をポジティブに転換する発想
100万円チャレンジは、従来の常識を完全に覆すサービスです。オバケ調査で「異常なし」と証明された部屋に対し、もし何らかの異常が発生した場合は100万円の懸賞金を支払うという仕組みです。
「出ないって証明書を出しているんですけど、『出たら100万円あげます』。映像で撮っても音声を撮っても何でもいいから、そういうことがあったという証拠をください」
この仕組みにより、入居者は相場通りの家賃を支払いながら、100万円を獲得するチャンスも得られます。オーナーにとっては家賃を下げることなく入居者を確保でき、入居者にとっては金銭的メリットと興味深い体験の両方を得られる、まさにWin-Winの関係が成立します。
入居者の意識を「後ろ向き」から「前向き」へ
この戦略の最も興味深い効果は、入居者の意識変化です。
「今まではいやだなぁ・・・、この部屋はオバケが出るかもしれない。でも安いから住んでいるからしょうがないかという後ろ向きだったのが、100万円が出るってなると『見つけるぞ見つけるぞ!』と前向きな部屋になるんです」
従来の事故物件入居者は、「安いから仕方なく住む」という消極的な動機でした。しかし100万円チャレンジでは、「100万円を獲得するチャンス」という積極的な動機に変換されます。何も起きなかった場合も「残念」と言いながら退去していくそうで、入居体験そのものがポジティブなものになっています。
オーナー・入居者双方にメリットをもたらす仕組み
100万円チャレンジの設計は、関係者全員にメリットをもたらすよう緻密に計算されています。
オーナーのメリット
家賃を下げることなく入居者を確保
話題性による入居者募集の容易化
万が一の場合はカチモードが借り上げ継続
入居者のメリット
相場通りの家賃で高品質な住環境
100万円獲得のチャンス
退去時も金銭的補償あり
懸賞金を支払う場合は、入居者に100万円を渡して半年後の退去を求め、その後カチモードが借り上げを継続します。オーナーの収入は途切れることなく、入居者は十分な資金を得て新たな住居を確保できます。
購入希望者の実態と市場の可能性
心理的瑕疵物件の市場拡大には、購入希望者層の理解と、潜在的な需要の掘り起こしが重要です。児玉氏の分析から見える市場の可能性を探ります。
どんな人が心理的瑕疵物件を選ぶのか
15年間の管理業務を通じて観察した入居者像は多様です。
「すごく忙しい人。アルバイトでも仕事を掛け持ちして一日数時間、寝るためだけに帰ってくるだけの人。とりあえず寝れるスペースだけ確保したいから家賃が安い方がいい」
具体的には以下のような層が挙げられます。
- 激務で家にほとんどいない人
- 医療従事者
- その他、人の死に近い所で勤務しているひと
- 出張の多いビジネスパーソン
興味深いのは退去理由です。本人は気にしていなくても、「結婚することになった」「彼女ができた」という理由で退去するケースが多いそうです。
「自分はいいんですけど、相手が嫌がる」というのが実情で、個人の価値観と社会的な目を気にする心理の違いが表れています。
70%の「条件次第」層を取り込む戦略
市場調査によると、事故物件に対する意識は以下のように分類されます。
- 絶対に住まない:20%
- 住んでもいい:10%
- 条件次第:70%
また、この70%の「条件次第」層をさらに分析すると以下の通りです。
どちらかというと住んでもいい(条件付き):30%
どちらかというと住みたくない:40%
従来は10%の「住んでもいい」層のみが対象でしたが、オバケ調査や100万円チャレンジにより、条件次第の30%を取り込むことができれば、市場は4倍に拡大します。さらに「どちらかというと住みたくない」40%からも一定の割合を取り込めれば、大幅な市場拡大が期待できます。
高齢者の住宅確保問題解決への展望
この取り組みは、高齢者の住宅確保問題の解決にもつながる可能性があります。
「高齢者の方たちを貸し渋っているオーナーがいます。亡くなったら価値が愕然として下がるからです。ただ、跳ね返せる手段があったり、そこに住んでもいいよという入居者さんが増えてくるとしたら、貸してもいいんじゃないかという空気に変わってくるはずです」
心理的瑕疵物件に対する社会的な受容性が高まれば、高齢者への貸し渋りも減少し、深刻な社会問題の解決に貢献できる可能性があります。
心理的瑕疵物件オーナーへの具体的アドバイス
心理的瑕疵物件の売却を成功させるには、感情的な判断を避け、戦略的にアプローチすることが不可欠です。児玉氏が15年間の経験から導き出した成功の秘訣を紹介します。
「売り急がない」ことの重要性
最も重要なアドバイスは「売り急がないこと」です。
「いろいろな方々が『今ならこの金額で』とアプローチしてくるかもしれません。関係者ならばともかく、事故を聞きつけて声をかけてきている方などには、もしかしたら注意が必要かもしれません。その金額についてよく考えてみてください」
相続の期限や急な現金化の必要性がある場合を除き、時間的余裕があるならば冷静に状況を分析することが重要です。事故発生直後は判断力が低下しがちですが、適切な対策により状況を大幅に改善できる可能性があります。
冷静な現状把握と信頼できるパートナー選び
売り急がない前提で、児玉氏が推奨するのは以下の3点です。
- 焦らないこと
- しっかり向き合うこと
- 親身になってくれる業者を見つけること
「皆さん、生活する上での仕事を抱えた中で、厄介事として捉えてしまうんです。だから後回しになってしまう。それを代わりに考えてくれる人を見つけませんか」
多くのオーナーは本業を抱えながら突発的な事故対応に追われ、冷静な判断ができない状況に陥ります。そのような場合は、信頼できる専門家に判断材料の整理を任せ、オーナー自身は最終的な意思決定に集中するのが得策です。
付加価値創出による家賃・売却価格の回復
カチモードのアプローチは、心理的瑕疵を単なる「マイナス要素」として諦めるのではなく、適切な付加価値を創出することで価値を回復させることです。
「基本的には空室対策と同じ状況で考えています。空室対策であれば家賃を下げるのは最後の手段です。その前に外壁を直したり、モニター付きインターホンをつけたり、宅配ボックスを付けたりしますよね」
しかし心理的瑕疵物件の場合、従来は付加価値の検討なしに、いきなり家賃減額という「最後の手段」が選択されてきました。オバケ調査による証明書の発行は、この状況を変える新たな付加価値として機能します。
業界変革への想いと今後の展望
児玉氏の最大の目標は、心理的瑕疵物件に対する社会の印象を変えることです。
「いきなり毛嫌いするんじゃなくて、一回話を聞いてみようよという空気にしていきたいんです」
現在、心理的瑕疵物件の間口は極端な場合、通常物件の1/10程度しかなく、1つの部屋を決めるのに10倍の労力がかかっています。しかし、70%の「条件次第」層の一部でも取り込むことができれば、大幅な改善が期待できます。
「毛嫌いせずに『じゃあ一回話を聞いてみようか』みたいな空気になると思うので、そういうふうにしていきたい」
児玉氏が目指すのは、心理的瑕疵物件を隠すのではなく、堂々と運用できる環境の整備です。インターネットの普及により、物件の過去の情報は以前より簡単に調べられるようになりました。
「隠すことではなく、堂々と運用できる付加価値を創出することが重要」という児玉氏の考えは、業界全体の根本的な発想転換を促すものです。問題を避けて通るのではなく、正面から向き合い、新たな価値を生み出すアプローチが求められています。
悩めるオーナーへのメッセージ
最後に、心理的瑕疵問題で悩むオーナーへのメッセージをいただきました。
「本当に困ったらご連絡ください。運用に関してはほとんどのことに応えられるはずです。ファイナンシャルプランナーなど、必要に応じて資格も取得しているので、総合的なサポートが可能です」
児玉氏の強みは、15年間の現場経験により、管理・仲介・売買・修繕・相続など不動産業務全般をカバーできることです。しかも”敢えて”宅建法人免許を持たないコンサルティング会社のため、不動産業務に関して利害関係に縛られず、中立的なアドバイスを提供できます。
心理的瑕疵物件という、これまで「仕方がない」とされてきた課題に対し、カチモードは全く新しいアプローチで解決策を提示しています。オバケ調査による科学的証明、100万円チャレンジによる意識転換、そして関係者全員にメリットをもたらす仕組み設計。
これらの取り組みは単なるビジネスモデルを超えて、不動産業界の構造的問題に挑戦する社会変革の試みと言えるでしょう。「価値を戻す」というミッションのもと、心理的瑕疵物件が持つ新たな可能性を切り拓く挑戦は、まだ始まったばかりです。
心理的瑕疵物件でお悩みのオーナーの方々にとって、カチモードの取り組みは「こんな方法があったのか!」という新たな発見になるかもしれません。これまでの「仕方がない」という諦めから一歩踏み出して、新しいアプローチを試してみることで、予想以上の価値回復につながる可能性があります。
編集後記
前後編の2記事にわたり、心理的瑕疵物件をめぐる深刻な課題と、それに立ち向かう株式会社カチモード・児玉氏の実践的な取り組みをご紹介してきました。
児玉氏の挑戦は、不動産に関わる人々の「迷い」や「諦め」に寄り添いながら、新たな選択肢と希望を提示するものです。
\児玉氏の書籍のご案内/
最新刊|2025年6月発売
『事業内容:オバケ調査 – 事故物件を科学的に調査する会社で起きたこと』
「告知事項あり」の物件を抱えてしまった不動産オーナーを救うべく、「オバケ専門の調査会社」株式会社カチモードを立ち上げた著者。
起業の背景から詳細な調査事例まで、メディア出演多数でも語り切れていない戦慄のドキュメント。
児玉氏が実際に体験した不思議なエピソードを知りたい方は、2025年1月に発売された既刊書もおすすめです。
既刊|2025年1月発売
『告知事項あり。』
事故物件で起きた出来事をはじめ、著者自身が実際に体験した不思議なエピソードを書籍化。本当に怖いのは、事故物件なのか? それとも……
不動産管理会社の営業マンとして約7,000室の物件を内見し、日本で初めて“オバケ調査”を行う株式会社カチモードを起業した著者による実録集。
【回答期間:2025年7月13日(日)~2025年8月18日(月)】