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【後編】ホームローンドクター淡河氏に聞いた!住宅購入で失敗しない「収支重視」の判断法|年収より大切なフリーキャッシュフロー

前回の記事では現在の住宅市場を取り巻く環境と、判断する際の基本的な考え方についてお伝えしました。
今回は、より具体的で実践的な内容に踏み込みます。
「年収の何倍まで」といった一般的な基準の危険性から、本当に重視すべき「収支」の考え方、そして自分にとっての「納得解」を見つけるための具体的な方法まで、住宅購入で後悔しないためのポイントについて解説します。

目次

年収基準の住宅購入が危険な理由

ホームローンドクター株式会社 淡河 範明代表取締役)

住宅購入の際によく使われる「年収の何倍まで」という基準。一見分かりやすく思えるこの指標ですが、実は大きな落とし穴が潜んでいます。

「年収の5倍まで」ルールの致命的な間違い

住宅購入を検討する際、よく耳にするのが「年収の何倍まで」という基準です。しかし、ホームローンドクターの淡河範明さんは、この考え方を「致命的な間違い」だと断言します。

「年収1000万円の人がいたとします。5倍ルールなら5000万円の家を買ってもよさそうに感じますが、高額所得者の中には8000万円くらいの物件を検討する人もいます。でも、その人の支出パターンによっては、年収1000万円でも3000万円の家すら買ってはいけない場合があるんです」

問題は、収入の大きさだけを見て判断することの危険性にあります。同じ年収でも、その人のライフスタイルや支出傾向によって、住宅に回せる資金は大きく異なるからです。

収入ではなく「収支」で考える重要性

淡河さんが強調するのは、収入と支出のバランス、つまり「収支」で考えることの重要性です。

「たとえば、お金遣いが荒くて全部飲み食いに使ってしまい、貯金が1円もない年収1000万円の人がいたとします。この人は家賃に回すお金すら貯められていないので、余裕がないということです。こういう人は収入に関係なく、住宅購入は控えるべきでしょう」

重要なのは「フリーキャッシュフロー」、つまり現在どれくらいの余裕資金があるかということです。

具体例で考えてみましょう。現在家賃10万円を払っていて、月々2万円の余裕資金がある人の場合、住宅に最大12万円まで回すことができます。

「この場合、月々12万円以上の買い物をしてはいけません。それを超えてしまうと、友達の結婚式に出席したくてもお金がなくて出られない、ということになってしまいます」

さらに淡河さんは、将来の貯蓄能力についても言及します。

「毎月5万円貯金できる状況なら、12カ月で60万円、30年で1800万円貯まります。1800万円が老後に貯まっていれば悪くないですよね。でも1万円しか貯められないとなると、30年で360万円なので年収に関係なく非常にまずい状況です」

このように、収入の絶対額ではなく、支出と収入のバランスをしっかり見ることが重要なのです。

多くの人が騙される「1パターン」ライフプランの落とし穴

ファイナンシャルプランナーに相談してライフプランを作成する人も増えていますが、そこにも注意すべき点があります。

FPが作る「うまくいく前提」の危険性

多くの人がファイナンシャルプランナー(FP)に相談してライフプランを作成しますが、そこにも大きな落とし穴があると淡河さんは指摘します。

「ライフプランは問題があるかどうか確認するために立てるべきなのに、多くのFPは『こうやるとうまくいきます』というプランを立てるんです。でも、人生が100%そのプラン通りになることは絶対にありません」

淡河さんが推奨するのは、複数のパターンで計算することです。

「収入、物価、金利などいろんなパターンが考えられるわけです。子供だって浪人したり、留年したり、留学したりするかもしれません。双子が生まれるかもしれません。どこかで線引きは必要ですが、少なくとも3パターンくらいは計算したいですね」

多くの人は1パターン、センスがいい人でも2パターンしか計算しません。しかし、複数のシナリオを検討することで、「物価上昇が2%までは耐えられるが、3%以上はきつい」といった具体的な感覚を掴むことができます。

「起きてから対処」では遅すぎる

「事業計画と同じで、100%計画通りになるはずがないので、途中で修正が入ります。でも最悪の場合にどうすべきかを今のうちに考えて、手が打てるなら打っておきましょう。問題が起きた時に対処できることは、ほとんどないんです」

万能な対策として、淡河さんは「お金を貯める」ことを挙げます。現金があれば様々な状況に対応しやすく、保険よりも汎用性が高いからです。

住宅ローン控除・団信を正しく活用する考え方

住宅ローン控除や団体信用生命保険など、住宅購入を後押しする制度は確かに存在します。しかし、これらの制度に頼りすぎることの危険性もあります。

制度ありきで判断してはいけない理由

住宅ローン控除や団体信用生命保険(団信)などの制度は確かに存在し、活用すべきものです。しかし、これらを前提として計算することには注意が必要だと淡河さんは言います。

「制度を踏まえて計算してもいいのですが、それよりも将来どれくらいの余裕を確保するべきかを別途考えておくことが重要です」

多くの人は「とりあえず返せそう」という曖昧な基準で判断してしまいがちですが、これでは不十分です。

購入後も貯金できる水準の見極め方

淡河さんが危惧するのは、営業担当者やFPが都合よく数字を調整してしまうことです。

「『なんとか返せるように作っておいてください』と言われれば、インフレ率と収入の伸び率を調整して、大抵うまくいくように見せることができてしまいます。でもそれは変数を操作しているだけで、本質的な解決にはなりません」

健全な住宅購入の判断基準として、淡河さんは「購入後も一定額の貯金ができるかどうか」を挙げます。住宅ローンを返済しながらも、将来に備えた貯蓄ができる水準に抑えることが重要なのです。

納得できる住宅購入のための「ゴール設定」

住宅購入の判断において最も重要なのは、自分自身の人生設計を明確にすることです。

ファイナンシャルフリーダムという考え方

淡河さんが提案するのは「ファイナンシャルフリーダム」という概念です。これは「お金に困らない生き方」「お金に縛られない生き方」を意味します。

「たとえば50万円のバッグと10万円のバッグがあったとします。50万円のバッグは高いですが、クラシカルで飽きのこないデザインで頑丈、5年間使えます。10万円のバッグは最新流行ですが1年しか持ちません。経済的には5年間で大きな差はありませんが、50万円がない人は選択肢がありません」

ファイナンシャルフリーダムとは、どちらでも選べる状態を作ることです。

人生から逆算する家選びと「納得解」の見つけ方

多くの人は具体的な人生設計をせずに「なんとなくいい人生を送りたい」と考えがちです。しかし、淡河さんは具体的なゴール設定の重要性を強調します。

「どんな人生を送りたいかを具体的に考えることから始めるべきです。たとえば、子供がどこかに行きたい、大学に行きたいと言った時に、お金の問題で断らせるのは忍びないですよね。そういう余裕のある生活を目指すというのが一つのゴールになります」

ゴールが設定されれば、そこから逆算して方法を考えることができます。「老後までに2500万円欲しい、現在300万円しかない、25年で2200万円を作る必要がある」といった具体的な計算ができるようになります。

住宅購入に唯一の正解はありません。重要なのは、自分にとっての「納得解」を見つけることです。

「現実的な内容で、リスク・リターン・コストのバランスが良い、本当に最適化されたプランになっているかどうかが大切です」

FPとの上手な付き合い方

住宅購入という人生の大きな決断において、専門家の知識を活用することは重要です。しかし、その相談方法や専門家との向き合い方を間違えると、かえって判断を誤る可能性もあります。

専門家への相談で大切なこと

「FPに相談するのは、大阪に行くときにどの交通手段がいいか相談するのと同じです。新幹線で何時に着くか、どの駅で乗り換えればいいかといった実務的なことは、専門家の知識が活かされます

ただし、基本的なプランや方向性は自分で決める必要があります。相談する際の心構えも重要で、「『老後に2500万円貯めたいです』と具体的に言ってくれればプランは書きやすいのですが、『どうしたらいいか分からないんですが、どうしましょう』と言われたら、『どうしましょうかねえ』としか答えられません」

具体的なゴールを設定してから相談することで、より実用的なアドバイスを得ることができます。

リベラルアーツとしてのマネーリテラシー

最後に淡河さんは、自分自身の判断力を養うことの重要性を強調します。

「リベラルアーツのように、きちんと自分の考えや判断軸を持って、しっかりと判断ができるということは、とても大事だと思います」

専門家の資格を持っているだけでは不十分で、豊富な経験と深い洞察力が必要です。そして、そうした専門家を見極める目を養うためにも、自分自身のマネーリテラシーを高めることが欠かせません。

住宅購入は人生の中でも特に大きな決断です。年収や一般的な基準に惑わされることなく、自分の収支バランスと将来のゴールを明確にした上で、複数のシナリオを検討して判断することが重要です。そうすることで必ず「正解」にたどりつける保証がある訳ではありませんが、自分にとって納得のいく「納得解」を見つけることができるはずです。

次回からは、住宅ローンの専門家である淡河範明さんによる記事を2回にわたってお届けします。より具体的な戦略立ての方法と、デフレ脳からインフレ脳への転換について、専門家の視点から詳しく解説していただきます。どうぞお楽しみに。

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この記事を書いた人

元信託銀行員。宅建士・ 2級FP技能士をはじめ、複数の金融・不動産資格を所持。それらの知識をもとに、「初心者にもわかりやすい執筆」を心がけている。2児の子育て中でもあり、子育て世帯向けの資産形成、女性向けのライフプラン記事を得意とする。

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