
渋谷駅を利用する方なら、長年続く工事に「いつまでかかるの?」と一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
「東京のサグラダ・ファミリア」とも揶揄される渋谷駅は、2002年の東急東横線の地下化を契機として、周辺一帯も含めた「100年に一度」といわれる再開発工事が進められてきました。
その渋谷駅周辺一帯の大規模再開発が、今後10年程度でいよいよ完成を迎える最終章に差し掛かっています。
近年でも渋谷スクランブルスクエアや渋谷アクシュなどの商業施設が開業していますが、今後も多くの計画が控えており見逃せません。
そこで本記事では、今後開業予定の主な渋谷再開発プロジェクトをまとめ、不動産市場や不動産投資の観点から渋谷の「これから」について解説します。
「これから開業する再開発」に注目すべき理由
再開発計画について、一般的に情報を多く目にするのは完成間近、あるいは完成直後でしょう。
しかし、注目すべきは1年〜数年後に完成する計画中・進行中の再開発プロジェクトです。
次に、「これから開業する再開発」に注目すべき理由について解説します。
再開発後のエリアは“価格が天井に達している”可能性
再開発による地価上昇効果は大きく、渋谷などの都内の既存再開発エリアでは、地価が再開発前と比較して数割〜倍増するケースが見られました。
しかしその分、再開発が完了したエリアは不動産価格がすでに高騰しきっている、いわゆる「天井に達している」状態である可能性が上がります。
こうした価格の「天井感」は、投資リスクの増加や収益率の低下への懸念につながるため、今後の価格上昇余地は限定的になると考えられます。
開業前こそ不動産・街づくりの“仕込み時期”
再開発が完了してエリア内の各種施設が開業する前、特に計画段階では詳細自体が決定していないことも多く、また公表されている部分も少ないため購入・投資判断が難しい部分があります。
しかし、その分これから再開発事業が進行するエリアは、不動産価格が割安な段階にあり将来的な資産価値向上の恩恵を受けられる可能性が上がります。
再開発事業の計画・進行段階にあるエリアは、新たな街を徐々に形作る時期であると同時に、不動産購入の観点でも「仕込み時期」にあたるといえるでしょう。
2027年以降に開業予定の渋谷再開発プロジェクト一覧
今後数年にかけて、渋谷エリアでは新たな大型再開発プロジェクトが続々と完成を迎えます。
ここでは、主な4つのプロジェクトについて紹介します。
①道玄坂二丁目南地区再開発(2027年度完了予定)

「渋谷マークシティ」隣接の敷地面積約6,720㎡、道玄坂を少し登ったところの新大宗ビルなどの老朽化したビル群があった一帯で進められているプロジェクトが「道玄坂二丁目南地区再開発」です。

同プロジェクトでは、低層階に店舗が入る地上30階のオフィス棟と、地上11階建てのホテル棟「TRUNK(HOTEL) DOGENZAKA(仮称)」が建設予定です。

完成すれば京王井の頭線「渋谷」駅直結、JR・東京メトロ各線「渋谷」駅からも徒歩2分という絶好の立地となり、駅周辺の商業施設群の充実が一層図られます。
2022年度に解体工事が始まり、2023年度から着工、現在は2027年度の完成を目指して工事が進められているところです。

同プロジェクトを手がける三菱地所では、駅周辺から道玄坂方面への人の流れの創出と渋谷全体の回遊性の向上、ラグジュアリーホテルの導入による来街者誘致へとつなげることを目指しています。
②道玄坂二丁目南地区再開発(2029年度完了予定)

道玄坂二丁目には、「道玄坂二丁目南地区再開発」のほかにもう一つ開発プロジェクトが行われています。
「Shibuya Upper West Project(渋谷アッパー・ウエスト・プロジェクト)」は、2023年1月に営業終了した東急百貨店本店の跡地で進行中の大規模複合開発です。
同プロジェクトでは地上36階地下4階の複合施設が建設され、高級賃貸住宅や日本初進出のラグジュアリーホテルが入る予定になっています。

同プロジェクトは2025年3月に着工、現在工事は進行中で、2029年度の完成予定です。

また、予定地はBunkamuraと隣接し、賑やかな渋谷と静謐な松濤・奥渋谷をつなぐエリアでもあります。
その特徴から、東急では文化と商業を融合した「Tokyo’s Urban Retreat(都会の隠れ家)」としての拠点を目指すとしています。
③渋谷駅西口駅ビル開発(2031年度完了予定)

再開発は駅周辺だけでなく、渋谷駅そのものでも進行中です。
2019年に先行開業し、現在展望施設「SHIBUYA SKY」を中心に人気を集める「渋谷スクランブルスクエア」の第Ⅱ期にあたる、中央棟と西棟の工事も2031年度の完成を目指して始まっています。

計画では中央棟は地上10階、西棟は地上13階建てとなり、完成後は東棟とあわせて1フロアあたりの売場面積が最大約6,000㎡となる首都圏最大級の商業施設が開業します。
また、2030年度には長年にわたる渋谷駅改良工事の主な部分が完成します。
完成後には、銀座線渋谷駅ホーム直上に渋谷スクランブルスクエア中央棟に接続する「4階東口スカイウェイ」が完成し、空中回廊として通行可能です。
さらに、西棟の前面にもに約3,000㎡の歩行者デッキが整備され、駅を中心に東西南北につながるデッキ階の歩行者ネットワークが生まれ駅周辺の回遊性が大きく向上する予定です。

第Ⅱ期の完成により、渋谷スクランブルスクエアは渋谷のランドマークとしてだけではなく、駅周辺の歩行者導線のハブ施設としての役割も果たします。
④宮益坂地区第一種市街地再開発事業(2031年度完了予定)

「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」は、宮益坂と明治通りが交差する付近の約1.4haを対象として東急、ヒューリックが中心となり進めている大規模再開発プロジェクトです。
計画では、地上33階建てで事務所・店舗・ホール・宿泊滞在施設が入るA街区を中心に、地上7階建てで店舗が入るB街区、御嶽神社が建て替え・整備される地上2階建てのC街区から成る複合ビルが建設予定です。


また、歩行者通路や立体広場、上空通路の整備により駅周辺と一体化した歩行者ネットワークの強化が図られます。
現在は2031年度の完成予定ということもあり、目立った工事の兆候は見えない状況です。


各再開発エリアの「街の使われ方」の未来予測

渋谷再開発の中心である東急グループでは、渋谷の街づくりを街としての「点」のみならず、ほかの魅力ある周辺エリアも含めた「面」としての「広域渋谷圏」戦略の中核として位置付けています。
ここではこうした構想に基づいた再開発によって、渋谷の「街の使われ方」が今後どのように変化していくのかについて展望を見てみましょう。
住む・働く・集うが融合する次世代都市モデルへ
東急グループは、新しいビジネスや文化を世界に発信し続ける「エンタテイメントシティSHIBUYA」の実現と、都市機能の課題解決を目指して「渋谷ヒカリエ」や「渋谷アクシュ」など11の再開発プロジェクトを進めてきました。
これらの再開発で商業施設やオフィス、宿泊施設に加え、ホールや住宅など多彩な都市機能が大きく拡充され、国内・国外問わず「住む」「働く」「集う」が融合した次世代都市モデルの渋谷が形づくられつつあります。
歩行者中心の都市整備により、居住性が大きく向上
前述したように、今後渋谷駅周辺では再開発により歩行者の利便性や回遊性も大きく向上します。
2030年度には最大幅員23mの自由通路などが整備され、駅を中心に地上とデッキ階で東西南北を結ぶ多層的な歩行者ネットワークが完成予定です。

駅と周辺エリアが立体的かつシームレスにつながる歩行者中心の都市空間の実現は、混雑緩和や安全性の向上、バリアフリー化にも寄与し、駅周辺の居住性や快適性を高める効果が期待されています。
渋谷再開発が不動産・暮らしに与える影響

次に、渋谷のマンション市場と再開発による変化について解説します。
①分譲マンション価格の変化

上のグラフは、2016年~2025年の分譲マンションの㎡あたりの価格の推移を示したものです。
9年間で平均売買㎡単価は92万円から177万円と大きく上昇しており、+92.3%と2倍近く上昇しています。
また、国土交通省の取引事例でも2018年の第一四半期の中古マンション平均価格が約116万円から2024年の第一四半期では183万円に上がっており、おおむね同様の傾向となっています。
こうした価格高騰の背景には、渋谷駅周辺の中古マンション流通が限定的であることも影響しています。
ここで、渋谷駅周辺の現在の中古マンションの流通状況についても見てみましょう。
渋谷駅周辺800m 駅徒歩×築年帯別2024年6月~2025年5月の中古マンション新規売出数
~築1年 | ~築5年 | ~築10年 | ~築15年 | ~築20年 | 築21年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
徒歩1分 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
~徒歩3分 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
~徒歩5分 | 5 | 15 | 4 | 14 | 0 | 24 |
~徒歩7分 | 0 | 6 | 12 | 10 | 10 | 109 |
~徒歩10分 | 15 | 44 | 6 | 7 | 20 | 159 |
渋谷駅周辺800m 駅徒歩×築年帯別中古マンション坪単価
~築1年 | ~築5年 | ~築10年 | ~築15年 | ~築20年 | 築21年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
徒歩1分 | – | – | – | – | – | – |
~徒歩3分 | – | – | – | – | – | – |
~徒歩5分 | 2360万円/坪 | 2196万円/坪 | 665万円/坪 | 1176万円/坪 | – | 488万円/坪 |
~徒歩7分 | – | 862万円/坪 | 1348万円/坪 | 857万円/坪 | 587万円/坪 | 641万円/坪 |
~徒歩10分 | 1393万円/坪 | 1079万円/坪 | 653万円/坪 | 1161万円/坪 | 1148万円/坪 | 532万円/坪 |
渋谷駅周辺800m駅徒歩×築年帯別中古マンション単価(60㎡換算)
~築1年 | ~築5年 | ~築10年 | ~築15年 | ~築20年 | 築21年以上 | |
---|---|---|---|---|---|---|
徒歩1分 | – | – | – | – | – | – |
~徒歩3分 | – | – | – | – | – | – |
~徒歩5分 | 42829万円 | 39858万円 | 12067万円 | 21338万円 | – | 8855万円 |
~徒歩7分 | – | 15654万円 | 24458万円 | 15548万円 | 10659万円 | 11637万円 |
~徒歩10分 | 25277万円 | 19592万円 | 11849万円 | 21075万円 | 20845万円 | 9650万円 |
築年数を問わず、駅3分未満の物件は流通しておらず、かつ大半のマンションが60㎡換算で1億円を超える価格となっています。
また、現在築浅かつ駅近の物件がほぼ流通していないことから、再開発により新築マンションの供給があった場合には価格はかなり高騰すると考えられます。
②渋谷区内の人気マンション動向
次に、マンション価格の高騰が続く渋谷区内で投資・居住の両面から評価されている代表的な物件を3つ紹介します。
ブランズ渋谷桜丘
JR渋谷駅から徒歩1分という再開発エリア内の希少な立地と、2023年竣工の新しさが大きな魅力です。
駅直結かつ複合施設「Shibuya Sakura Stage」内という利便性や、ブランド力の高さから将来的な資産価値の上昇が期待でき、賃貸需要も見込めるため居住目的だけでなく投資面でも高く評価されています。
宮益坂ビルディング ザ・渋谷レジデンス
東京メトロ銀座線渋谷駅から徒歩1分、複合施設「渋谷ヒカリエ」直結という好立地にあり、都心の利便性と高い資産価値を両立した2020年築のマンションです。
高級ホテルのようなエントランスをはじめとした開放感があり洗練されたデザインに加え、24時間有人管理による防犯体制も備わっている点も評価されています。
ザ・パークハウス渋谷南平台
JR渋谷駅徒歩8分と駅徒歩圏ながら南平台町の落ち着いた高台に位置し、都心の利便性がありながら静かな住環境を兼ね備えている点が人気のマンションです。
2019年築と比較的築浅物件なことに加え、道玄坂エリアにも近く再開発による将来的な資産価値の上昇も期待されています。
敷地内に庭園を眺められるラウンジスペースが設けられているほか、コンシェルジュサービスや入出庫代行サービスなど毎日ホテル生活のように過ごせる環境も居住目的でも高い評価のもととなっています。
渋谷周辺で注目のマンションプロジェクト(販売予定含む)
ここで、今後供給される予定のマンションについても見てみましょう。
現在販売が予定されており注目されているのが、2025年10月下旬引渡し予定、7月中旬に最終期が販売予定の「プラウド渋谷東」です(第3期の販売価格は約9,000万円台〜2億9,000万円)。
渋谷駅・恵比寿駅ともに徒歩9分、代官山駅徒歩圏のマンションで、曲線を用いた柔らかいデザインのモダンな外観が印象的です。
また、今後の再開発「Shibuya Upper West Project」では、地上34階建ての高層ビル内に18〜33階を賃貸レジデンスとして供給予定です。
「分譲・賃貸問わず渋谷エリアで新築マンションに住みたい」と考えている人は情報をチェックしておきましょう。
いま注目すべき“未完成エリア”での不動産購入・投資戦略

不動産市場では、再開発の進行状況によってエリアごとの資産価値や将来性が大きく左右されます。
今後再開発の最終段階を迎える渋谷でも、“未完成エリア”を中心に据えた戦略が必要です。
次に、再開発エリアでの不動産投資・購入で注目すべきポイントについて解説します。
価格上昇が「これから」のエリアを狙え
渋谷エリアに限らず、不動産市場では再開発が進むごとに資産価値が高まり、すでに完成したエリアでは価格が高止まりする傾向が見られます。
だからこそ、これから大規模な再開発が控えている「未完成エリア」は、将来的な価格上昇や需要拡大の恩恵を受けやすい投資・購入の狙い目といえます。
渋谷エリアでこれから注目すべきなのは、「道玄坂二丁目エリア」でしょう。
前述の通り、渋谷マークシティ隣接地では2027年度、東急本店跡地では2029年度完成予定で再開発プロジェクトが進んでいます。
居住目的・投資目的問わず、将来性を重視するなら、こうしたエリアへの早めの参入が有効な購入戦略です。
開発完成後に地価が跳ねるロジックと事例
大規模な再開発が行われると、商業施設や交通インフラの整備、街全体の景観向上によって利便性や居住性が大きく高まります。
これにより居住・ビジネス双方の需要が増加するため、地価や不動産価格が押し上げられるのが一般的なロジックです。
実際、品川エリアでは周辺再開発の進展によって、過去10年で地価が約34%上昇しました。
また、虎ノ門・麻布台プロジェクト周辺でも、2012年から2021年にかけて商業地地価が約2倍に跳ね上がるなど再開発効果が顕著に現れており、「再開発=資産価値向上」の図式が裏付けられています。
渋谷の再開発「未来予測」に関するよくある質問

最後に、渋谷エリアの再開発に関する質問について簡単にまとめました。
まとめ
渋谷駅周辺の大規模再開発はいよいよ最終章に入り、街の姿が大きく変わろうとしています。
今後も駅西口をはじめとした複数のプロジェクトが控えており、利便性や回遊性の向上とともに、エリア全体の資産価値アップが期待されています。
再開発の進捗や新規プロジェクトの動向による不動産市場の変化への注目は重要であり、渋谷だけでなくほかのエリアでの購入・投資を検討する際にも役立ちます。
渋谷の「これから」を見据え、将来性のあるエリア選びに役立てましょう。