マンション管理計画認定制度とは?マンション管理士に聞くメリット・難易度・その他評価制度との違い
2022年4月1日から始まった、マンション管理計画認定制度。管理の方法や資金計画、管理組合の運営などの基準をクリアすれば、地方公共団体から適切な管理計画を持つマンションとして認定を受けることができる制度です。
6月には、東京都板橋区内のマンションが全国で初めて同制度による認定を受けました。今後も認定を受けるマンションが増えると推測される今、すみかうる編集部は「株式会社さくら事務所」のマンション管理コンサルタントでマンション管理士でもいらっしゃる土屋輝之さんによるセミナーを取材。土屋さんが解説する「マンション管理計画認定制度」についてレポートします。

株式会社さくら事務所
執行役員/マンション管理コンサルタント
土屋 輝之
保有資格:マンション管理士・管理業務主任者・マンション維持修繕技術者・二級建築施工管理技士・宅地建物取引士・二級ファイナンシャルプランニング技能士
マンション管理計画認定制度のポイント

高経年マンションの急増や建物の老朽化、管理組合の担い手不足などが懸念される中、2020年6月、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)が改正・公布され、2022年4月1日に全面施行を迎えました。

マンション管理計画認定制度は、同法によって創設されたものです。認定を受けることで、管理の適正化の推進や市場における評価の向上などが期待されます。
マンション管理計画認定制度の目的
マンション管理計画認定制度の目的は、次の4つです。
- 管理状況の可視化
- 流通マーケットでの評価
- マンション管理の意識向上
- 管理組合運営や修繕などの円滑化

総じて、管理計画認定制度はマンションの管理不全を防止するための制度だといえます。
マンション管理計画認定制度の認定基準
マンション管理計画認定の基準は、次の通りです。別途、自治体独自の基準が設けられていることもあります。
- 管理者等が定められていること
- 監事が選任されていること
- 集会が年1回以上開催されていること
- 管理規約が作成されていること
- マンションの適切な管理のため、管理規約において災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理等について定められていること
- マンションの管理状況に係る情報取得の円滑化のため、管理規約において、管理組合の財務・管理に関する情報の書面の交付(又は電磁的方法による提供)について定められていること
- 管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること
- 修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
- 直前の事業年度の終了の日時点における修繕積立金の3か月以上の滞納額が全体の1割以内であること
- 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠し作成され、長期修繕計画の内容及びこれに基づき算定された修繕積立金額について集会にて決議されていること
- 長期修繕計画の作成又は見直しが7年以内に行われていること
- 長期修繕計画の実効性を確保するため、計画期間が30年以上で、かつ、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
- 長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
- 長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
- 長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない長期修繕計画となっていること
- 管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
- 都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること
マンション管理計画認定制度の活用方法とメリット
これまで、マンション管理の状態を客観的に判断するための基準はありませんでした。そのため、管理組合は何を目標に改善していけばいいのか不明瞭だったのです。加えて、マンション管理士など専門家によっても見解が分かれるということも少なくありませんでした。
今後は、マンション管理の定性的な指標ができたことで明確な目標を定めることができます。



なにを優先的に取り組んで、中長期的な目標をどこに設定するか……管理の「目標」がより明確化するのではないでしょうか。私たち専門家もアドバイスしやすくなります。認定を受ける予定のないマンションでも、大いに活用していただきたいですね!
マンション管理計画認定制度における評価項目の難易度
マンション管理計画認定制度は、ハードルの低い基本的な評価項目が大半を占めますが、一部、改善が難航する可能性のある項目もあります。



各項目の「難易度」については、他のメディアではあまり語られていない部分。現場のコンサルタントである私がわかりやすく解説します。
修繕積立金額【難易度:やや高い】
4-⑤ 長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
認定基準の一つである上記項目における修繕積立金の目安は、2021年10月に改訂された長期修繕計画ガイドラインが参考になります。


ガイドラインの改定により、修繕積立金額の目安は大幅に上がりました。マンションの規模によっては、上昇率が50%を超えています。とくに20階を超えるいわゆるタワーマンションの上昇率は著しく、改定前から64%の上昇です。
これは「目安」ですから、この金額前後であれば「著しく低い」とみなされることはないでしょう。しかし、改定前の目安前後の金額に設定しているマンションは、急激に50%も60%も上げることは難しいはずです。



この上昇率から国交省の“本気度”が伺えます……!
借入金残高のない長期修繕計画【難易度:やや高い】
4-⑥ 長期修繕計画の計画期間の最終年度において、借入金の残高のない長期修繕計画となっていること
「借入金の残高がない」というのは、要は「マイナスではない」ということ。中には、この項目をクリアするのに難航する管理組合さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
一時的な修繕積立金の徴収を予定していない【難易度:やや高い】
4-④ 長期修繕計画において将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
実は、将来、一時的な修繕積立金を徴収する予定のマンションは少なくありません。一時金の設定がないようにするには、積立金をかなり増額しなければならないマンションもあるでしょう。
1年に1回以上確認している組合員名簿・居住者名簿がある【難易度:高い】
6-① 管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
意外にも、組合員名簿や居住者名簿を整備することに難航する管理組合さんは非常に多いです。
個人情報の問題がありますから、名簿すら持っていない管理組合さんも少なくありません。名簿があったとしても「1年に1回以上の内容確認」ができていない管理組合さんは非常に多いものです。
マンション管理計画認定制度以外の評価制度も
- マンション管理計画認定制度(国土交通省・地方公共団体)
- マンション管理適正評価制度(マンション管理業協会)
- マンション管理適正化診断サービス(日本マンション管理士会連合会)
- 東京都優良マンション登録表示制度(東京都)
- BORDER5(さくら事務所)
マンション管理計画認定制度は、国土交通省と地方公共団体によるものです。
その他にも、マンション管理を評価する取り組みは、上記のように管理業協会主導のもの、自治体によるもの、民間企業によるものがあります。



「どの制度を選べばいいの?」という管理組合さんの声は非常に多く聞かれます。さくら事務所としては、管理に自信があるという管理組合さんは管理計画認定制度とマンション管理適正評価制度を取得されると良いと考えています。両制度ともに管理会社による申請が可能ですので、組合さんの負担も比較的少ないです。
▶さくら事務所のマンション管理評価制度「BORDER5」はこちら
マンション管理計画認定制度とマンション管理適正評価制度の違い


マンション管理計画認定制度とマンション管理適正化評価制度の主な違いは、上記の通りです。審査項目や判定方法、有効期間、費用などが異なります。
管理計画認定制度については「手数料」が自治体によって異なります。いまだ未発表の自治体もありますが、無料とする自治体もあるようです。その他、管理センターシステム費が1万円。事前確認審査費は長期修繕計画1件につき1万円ですが、2022年は無料です。
マンション管理適正化評価制度も、登録料が5,500円かかるところが2022年は無料となっています。
マンション管理計画認定制度の基準の中には難易度が高い項目も
- 2022年4月マンション管理適正化法の全面施行によりマンション管理計画認定制度がスタート
- 認定を受けることで管理の適正化の推進・市場における評価向上などに期待できる
- 認定基準の中には難易度が高いものも
- 管理計画認定制度以外の評価制度もある
- 認定を取るだけでなく管理の目標設定のための活用も
マンション管理計画認定制度による認定を受けることで、管理の適正化の推進や評価向上にも期待できます。しかし、土屋さんによれば、評価基準の中には難易度が高いものも含まれるのだとか。ただ、管理計画認定制度は認定を受けることだけが活用方法ではないと土屋さんは言います。
マンション管理の定性的な指標ができたことで、マンションの管理組合が目指す管理の形が明瞭化するというメリットも。今後、全国で認定が進んでいくことで、制度の重要性や認定の効果も変わってくるはずです。「マンションは管理を買え」とも言われますが、マンションの管理力を重視する買主も今後ますます増えていくものと考えられます。