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日本銀行(日銀)の総裁が2023年4月に黒田東彦(くろだ はるひこ)氏から植田和男(うえだ かずお)氏に交代してから、1年半以上が経過しました。
就任当初は、金融政策の大きな変更はないだろうと予想されていましたが、植田総裁のもとで大幅な政策変更が実施されることになりました。
本記事では、日銀総裁に就任した植田氏の経歴や金融政策の変更内容、今後の動向などをわかりやすく解説します。
植田氏は、マクロ経済学や金融論を専門とする経済学者です。東京大学理学部・経済学部を卒業しており、同大学で長きにわたって教鞭を執った経験もあります。
また、1998〜2005年には、日銀の審査委員(日本銀行政策委員会審議委員)を務め、ゼロ金利政策や量的金融緩和政策などの導入に携わりました。
2000年の金融政策決定会合にて、ゼロ金利政策の解除に反対票を投じたこともあることから、利上げに慎重であるハト派寄りといわれることもあります。
ハト派とは、各国の金融政策にかかわる人物の中で、金融緩和政策に前向きで利上げに慎重な人のことを指します。鳩は平和の象徴であることからこう呼ばれ、これに対して金融引き締めに積極的な人はタカ派と呼ばれます。
続いて、植田総裁が就任する前から継続されている大規模な金融緩和政策の内容や総裁就任直後の発言をみていきましょう。
黒田総裁が率いる日銀は、2016年1月に「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」という政策を開始しました。これがいわゆる大規模な金融緩和政策です。
大規模な金融緩和政策の実施が決まったのは「2%の物価安定目標」を達成するためです。2%の物価安定目標とは、前年と比較して物価が2%ずつ上昇していく状況のことを指します。
金融緩和政策の柱となっているのは「イールド・カーブ・コントロール(YCC)」と「マイナス金利政策」です。
イールド・カーブ・コントロール(YCC)は、日銀が10年国債の金利を操作する政策のことです。10年国債の金利が上昇しそうなとき、日銀が10年国債を指定した利回りで買い付けることで、金利上昇が抑えられます。
マイナス金利政策は、民間の金融機関が中央銀行(日銀)に預ける当座預金の金利の一部をマイナスにする政策です。当座預金金利の一部をマイナスにすることで、金融機関は余った資金を投資や融資などに回しやすくなるため、景気を刺激する効果が期待できます。
大規模な金融緩和政策の影響により、住宅ローン金利は歴史的な低水準で推移しています。
日銀総裁の次期候補が植田氏であると発表される前は、日銀総裁の交代によって金融緩和政策の方針が転換されると予測していた人は少なくありませんでした。
2023年2月4日、衆議院にて植田氏による所信聴取と質疑がありました。所信聴取とは、簡単にいえば「日銀総裁になったら私はこのようなことをします」と説明する場のことです。
所信聴取で植田氏は、「現在行っている金融緩和は適切。金融緩和を継続してしっかりと経済を支え、企業が賃上げできる経済環境を整える」と発言しました。
また、現在実施されている金融緩和政策の効果については「2%物価安定目標に向け必要かつ適切な手法である」とも述べています。
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日銀総裁が植田氏に交代した直後に、政策が急転換されることはありませんでした。しかし、就任から4か月が経った7月の会合からYCCの緩和が始まります。
その後、YCCは撤廃されただけでなく、マイナス政策金利の解除と追加の利上げなど、さまざまな政策変更が行われました。
まだ日銀の総裁が黒田氏であった2022年12月の金融政策決定会合では、YCCについて長期金利の変動幅を±0.25%から±0.5%に拡大することが決まりました。
2023年4月に植田和男氏が日銀総裁に就任すると、YCCは段階的に緩和されていきます。
まず、2023年7月27日・28日の金融政策決定会合では、YCCの運用をより柔軟化することが決められました。
長期金利の変動幅である±0.5%は上限や下限ではなく「めど」という表現となり、その値を多少超えても許容される運用方針に変更されています。
続く10月31日の会合では、長期金利の許容幅が「1%をめど」に修正され、さらにYCCが緩和されました。
そして、2024年3月18日・19日の会合において、日銀はマイナス金利政策の解除とともにYCCの撤廃を決めます。
住宅ローンの固定金利は、10年国債金利をはじめとした長期金利の影響を受けます。YCCの緩和や廃止により、住宅ローンの固定金利は上昇傾向にありました。
2023年4月に植田氏が日銀総裁に就任したあともしばらくは、マイナス金利政策が継続されていました。
しかし、2024年3月18日・19日の金融政策決定会合において、日銀はマイナス金利政策の解除を決定します。日銀は「賃金上昇と物価上昇の好循環が確認された」としてマイナス金利政策の役割を終えたと判断したのです。
解除にともない、政策金利は「金融機関が日銀で開設する当座預金の一部」から「無担保コールレート・オーバーナイト物」という金融商品に変更され、その金利が0〜0.1%程度で推移するように促される政策となりました。
その後、2024年7月30日・31日の金融政策決定会合では、追加の利上げが実施されます。
無担保コールレート・オーバーナイト物の金利が0.25%程度になるように促されることになったのです。
日本経済や物価が日銀の予想通りに推移していたため、年内に追加の利上げが実施されることとなりました。
住宅ローンの変動金利は政策金利の影響を受けます。マイナス金利が解除された時点では変動金利にさほど影響はありませんでした。しかし7月の追加利上げが実施されると、多くの金融機関が2024年10月から変動金利を引き上げています。
今後、日銀がさらなる利上げをすると、変動金利が上昇する可能性があります。
では、今後はどのような金融政策が実施される可能性があるのでしょうか。2025年に開催される予定の金融政策決定会合のスケジュールとあわせてみていきましょう。
日銀が金融政策の判断をする際にまず重視するのが、経済や物価が見通し通りに推移しているかどうかです。
日銀が予測するシナリオに沿って経済や物価が上昇しており、2%の物価安定の目標に近づいていることが確認されれば、段階的に政策金利は引き上げられるでしょう。
日銀内では、順調にいけば2025年度の後半には政策金利を1.0%程度まで段階的に引き上げるとの意見もあるようです。
また、円安が急激に進んだ場合にも、追加の利上げが実施される可能性があります。
円安が進みすぎると輸入品や資源価格が上昇し、コストプッシュ型のインフレが発生して、国民の生活が苦しくなる恐れがあるためです。
一方、景気が上向いていないときや金融市場が混乱しているときなどに利上げをすると、かえって日本経済が後退してしまいかねません。
日銀の金融政策は、経済・物価の動向を見極めながら慎重に決定されるため、今後の政策金利がどうなるのか正確に予測するのは難しい状況といえるでしょう。
2025年も日本銀行は、例年通り年8回の金融政策決定会合を開催する予定です。2025年の金融政策決定会合の日程は、以下のとおりです。
各会合の開催時点における物価の上昇ペースや賃金の動き、個人消費の状況など、日本経済のさまざまな指標をもとに政策変更の要否が検討されます。
また、海外経済の動向や為替相場、世界情勢なども重要な検討材料です。
2025年に開催されるいずれかの会合の時点で経済・物価の順調な推移や急激な円安などが確認されると、追加で利上げが行われる可能性があります。
住宅ローンを組んでマイホームを購入しようと考えている方は、日銀のホームページやニュースなどで日銀が会合で決めた政策の内容を確認するとよいでしょう。
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植田和男氏が日銀総裁に就任した当初は、大規模な金融緩和政策が継続されていました。しかし、2023年7月にYCCが緩和されたのを皮切りに少しずつ政策が変更されていきます。
2024年3月にはYCCの撤廃とマイナス金利政策の解除が発表され、同年7月には政策金利の追加引き上げも実施されました。
これらの影響により、住宅ローンの金利は、全体的にみれば固定金利・変動金利ともに上昇傾向にあります。
今後の金融政策は経済・物価動向を見極めながら慎重に判断されます。住宅購入を検討中の方は、日銀の金融政策決定会合の内容にも注目するとよいでしょう。
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保有資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士
大手生命保険会社にて7年半勤務し、チームリーダーや管理職候補として個人営業、法人営業の両方を経験。その後人材会社で転職したのちに副業としてwebライターを始める。お金に関する正しい知識をたくさんの人々に知って欲しいとの思いから、2019年1月よりwebライターとして独立。これまで保険、不動産、税金、音楽など幅広いジャンルの記事を、多数のメディアで執筆・監修している。
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