大阪市の中古マンション価格は、区ごとに大きな差があるだけでなく、「キタ」「ミナミ」「ニシ」といった広域エリアごとにも異なる傾向を見せています。
本レポートでは、まず大阪市全体の市況を確認したうえで、3エリア(キタ・ミナミ・ニシ)別の特徴を詳しく整理しました。
特に今回は、再開発が進む「ニシ(西区・港区・淀川区・大正区・此花区)」に焦点を当て、USJや夢洲万博、IR(統合型リゾート)構想など、今後大きな変化が期待されるニシエリアの動きをわかりやすく解説します。また、具体的な数値や比較データを交えながら、大阪市内におけるマンション価格の推移を紹介します。
調査期間: 2016年9月~2025年9月
調査機関: マンションナビ
調査対象: 大阪市(24区)のマンション
データ基準: 調査期間中の東京都23区におけるマンション売買価格の中央値
本レポートは、大阪市を「キタ(北区・福島区)」「ミナミ(中央区・浪速区・天王寺区)」「ニシ(西区・港区・淀川区・大正区・此花区=ベイエリア)」の3つに分類して分析。
「マンション売買価格の中央値」を指標とすることで、市場の動きや価値の変化を多角的に分析できます。
上昇率=(現在の値ー基準値)÷基準値×100%
【例】1年前に1,000,000円だった㎡単価が、現在は1,250,000円の場合。
(1,250,000-1,000,000)÷1,000,000×100=25…よって25%の上昇率がみられる。
大阪全体から各エリアの価格比較(2016年→2025年)
まずは大阪府全体、そして大阪市全体の価格推移を確認したうえで、主要エリアごとの動きを整理します。
大阪府全体の平均価格
マンションナビの最新データによると、2025年9月時点の中古マンション平均売買平米単価は51万円で、前月比0.6%の価格上昇となりました。
中心部の大阪市や北摂エリアで堅調な取引が続いており、府内全体では「安定上昇」の傾向が見られます。
今後は、大阪・関西万博や夢洲エリアの開発、さらにはリニア中央新幹線の開業見通しなどが住宅需要を下支えする要因となり、府全体として安定した相場形成が続くと見込まれます。


大阪市の平均価格

大阪市の中古マンション価格は、堅調な推移を見せています。2025年9月時点の中古マンション平均売買平米単価は約52万円で、前月比0.4%の価格上昇。9年前(2016年)と比べると約58%の上昇を記録しています。
区別で見ると、9年前比では、北区(126.5%)や中央区(87.5%)など、都心部の上昇率が特に顕著です。一方で、此花区(40.7%)や大正区(46.6%)などベイエリアではまだ割安な水準が続いており、エリア間の格差が鮮明になっています。
大阪市全体では、再開発・インバウンド需要・雇用環境の改善などが価格上昇の背景にあります。加えて、都心部の新築供給が限られる中で中古需要が拡大しており、堅調な上昇基調が続く見通しです。
ただし、金利の上昇や建築コスト高が続くことから、今後は「エリアごとの需給差」が価格推移を左右する局面に入りつつあります。
大阪3エリアの価格動向 ― キタ・ミナミ・ニシの個性が鮮明に
大阪市を3つの主要エリアに分けて見ると、それぞれに異なる特徴がみられます。
キタエリア

大阪を代表する都心エリアである「キタ(北区・福島区)」は、商業・ビジネスの中心地として圧倒的な存在感を持ちます。梅田周辺の大規模再開発によりオフィス・商業・住宅の一体整備が進み、資産価値の高さが群を抜いています。
平均売買平米単価は北区で102万円、福島区で76万円で、市内トップクラスの水準です。価格上昇率も9年前比で北区は126.5%と突出しており、都心プレミアムの象徴といえます。




ミナミエリア

観光・商業エリアとして国内外から注目を集める「ミナミ(中央区・浪速区・天王寺区)」では、商業地と住宅地が入り混じる独特の市場構造が形成されています。
2025年9月時点の平均売買平米単価は、中央区で87万円、浪速区で71万円、天王寺区で70万円と、同じエリア内でも価格帯の差が大きいのが特徴です。
9年前(2016年)と比較すると、中央区は87.5%、天王寺区は75.9%、浪速区は46.0%の上昇を記録しました。特に中央区では、心斎橋・本町エリアを中心にオフィスビルの建て替えや再開発が進み、都心としてのブランド力が価格上昇を支えています。
一方、浪速区ではインバウンド需要や民泊関連物件の増加により投資取引が活発化した時期もありましたが、ここ数年は利回り低下の影響で価格上昇がやや落ち着いています。また、天王寺区は「あべのハルカス」周辺の再整備や鉄道アクセスの良さを背景に、居住ニーズが安定。ファミリー層から単身層まで、幅広い層からの需要が堅調に続いています。
住宅購入層にとっては、利便性と価格のどちらを優先するかが問われるエリアであり、同じミナミでも「投資向きの浪速区」か「居住志向の天王寺区」かで、選択の方向性が大きく変わるといえるでしょう。






ニシエリア

そして、最も注目を集めているのが「ニシ(西区・港区・淀川区・大正区・此花区)」エリアです。
USJを擁する此花区や夢洲万博の予定地を抱える港区、ベイサイド再開発が進む大正区、都心に隣接し利便性の高い西区、そして新大阪へのアクセスが良い淀川区など、多様な個性が共存しています。
2025年9月時点の平均売買平米単価は40〜70万円台とエリア内でも幅があり、9年前比では西区+76.3%、此花区+40.7%、淀川区+51.6%と堅調な伸びを示しています。西区では再開発の進展により、都心隣接エリアとしての資産価値が高まりつつあります。また、港区や此花区では大阪・関西万博や夢洲IR構想を背景に、長期的な需要拡大が見込まれています。さらに、大正区では水辺空間の活用が進み、かつての工業地帯から居住エリアへの転換が進行中です。
一方で、ベイエリア特有の地盤リスクや交通利便性のばらつきといった課題も残っています。開発進度や生活インフラの整備状況によって将来性に差が生じるため、“どの区を選ぶか”が資産価値を左右するエリアといえるでしょう。
今後は万博・IR関連の効果がどの程度実需に波及するかが注目され、ニシエリア全体の地価動向を見極めることが重要になりそうです。










キタ・ミナミ・ニシの比較分析
大阪市内の主要3エリアは、立地や価格帯、居住層の傾向が大きく異なるため、明確な違いが見えてきます。それぞれの特徴を整理すると、以下のようになります。
- キタ
北区・福島区を中心に平均売買平米単価70〜100万円台と市内トップ。再開発が進む都心エリアで、安定した資産価値を維持。 - ミナミ
中央区・浪速区・天王寺区で平均売買平米単価70万円前後。商業地が多く、観光・投資需要と実需が混在。 - ニシ
西区・港区・淀川区・大正区・此花区で平均売買平米単価40〜70万円台。ベイエリア中心に、今後の成長余地が大きい価格帯。
- キタ
梅田・中之島を中心にビジネス街と高級住宅地が融合。再開発効果で堅調。 - ミナミ
商業・観光の中心地。心斎橋や難波周辺で再整備が進み、居住利便も高い。 - ニシ
万博・IR関連で注目のエリア。再開発や交通網整備が進み、将来的な伸びしろが期待される。
- キタ
職住近接を求める会社員層や富裕層、投資家。 - ミナミ
利便性を重視する単身・共働き世帯。 - ニシ
価格と将来性を重視する実需層・投資層。
このように、現時点の価格水準は「キタ>ミナミ>ニシ」となっていますが、今後の成長余地という点では「ニシ」が最も伸びしろのあるエリアといえます。
都心の安定性を求めるならキタ、生活利便と価格バランスを重視するならミナミ、将来の資産価値上昇を狙うならニシとそれぞれの戦略が分かれる局面に入っています。
表:キタ・ミナミ・ニシの現在の平米単価と9年前との上昇率比較
キタ | 上昇率(9年前比) | 平米単価(万円) |
---|---|---|
北区 | 126.5% | 102.0 |
福島区 | 61.4% | 76.0 |
ミナミ | 上昇率(9年前比) | 平米単価(万円) |
---|---|---|
中央区 | 87.5% | 87.0 |
天王寺区 | 75.9% | 70.0 |
浪速区 | 46.0% | 70.0 |
ニシ | 上昇率(9年前比) | 平米単価(万円) |
---|---|---|
西区 | 76.3% | 77.0 |
港区 | 59.5% | 49.0 |
淀川区 | 51.6% | 44.0 |
大正区 | 46.6% | 42.0 |
此花区 | 40.7% | 40.0 |
大阪市価格上昇率ランキング(2025年9月時点)
大阪市における9年前との上昇率をランキング形式で紹介します。過去9年間で各エリアがどのように変動してきたのかを可視化しました。
売買の最適なタイミングを見極めるヒントとして、ぜひご活用ください。
順位 | 24区 | 上昇率(9年前比) | ㎡単価(万円) | エリア |
---|---|---|---|---|
1 | 大阪市北区 | 126.5% | 102.0 | キタ |
2 | 大阪市中央区 | 87.5% | 87.0 | ミナミ |
3 | 大阪市西成区 | 87.0% | 40.0 | |
4 | 大阪市西区 | 76.3% | 77.0 | ニシ |
5 | 大阪市天王寺区 | 75.9% | 70.0 | ミナミ |
6 | 大阪市東成区 | 73.8% | 57.0 | |
7 | 大阪市福島区 | 61.4% | 76.0 | キタ |
8 | 大阪市港区 | 59.5% | 49.0 | ニシ |
9 | 大阪市阿倍野区 | 55.7% | 60.0 | |
10 | 大阪市西淀川区 | 53.0% | 40.0 | |
11 | 大阪市淀川区 | 51.6% | 44.0 | ニシ |
12 | 大阪市鶴見区 | 50.1% | 43.0 | |
13 | 大阪市都島区 | 49.8% | 51.0 | |
14 | 大阪市城東区 | 49.4% | 44.0 | |
15 | 大阪市東淀川区 | 48.8% | 39.0 | |
15 | 大阪市生野区 | 48.8% | 33.0 | |
17 | 大阪市大正区 | 46.6% | 42.0 | ニシ |
18 | 大阪市浪速区 | 46.0% | 71.0 | ミナミ |
19 | 大阪市東住吉区 | 42.8% | 40.0 | |
20 | 大阪市住之江区 | 42.4% | 33.0 | |
21 | 大阪市此花区 | 40.7% | 40.0 | ニシ |
22 | 大阪市住吉区 | 37.9% | 40.0 | |
23 | 大阪市旭区 | 34.1% | 36.0 | |
24 | 大阪市平野区 | 27.6% | 31.0 |
ニシエリアに注目 ― 再開発がもたらす可能性とリスク
USJや夢洲万博、IR計画などの開発が集中するニシエリアは、今後数年の大阪不動産市場を左右する重要なエリアといえます。
利点は「将来性」と「割安感」。中心部より坪単価が2〜3割ほど低い水準ながら、再開発進行による地価上昇が見込まれています。特に此花区は鉄道アクセスが改善されれば、ファミリー層の定住地としても注目度が高まるでしょう。
ただし、リスクもあります。ベイエリアは地盤の弱さや津波リスクといった地理的課題が指摘されることもあり、長期的な投資にはエリア選定の見極めが欠かせません。また、万博後の需要が一時的に落ち着く可能性もあるため、「短期的な値上がりを狙う」よりも「10年先を見据えた購入・保有」を意識することが大切です。
よくある質問
まとめ ― 「ニシ」は次なる大阪の主役へ
大阪市全体では価格が横ばいから微増基調を維持していますが、エリア別に見ると、明暗が分かれ始めています。
キタ・ミナミは依然として高価格帯を牽引する一方、ニシエリアは「今後伸びる余地」を秘めた成長株といえます。再開発・万博・IR構想といった話題性に加え、まだ価格が手の届く水準であることも魅力です。
住み替えや投資を検討している方にとって、「ニシ=ベイエリア」は今後の動向を注視する価値が高いエリアといえるでしょう。
データ提供/マンションナビ