不動産お悩み相談室

REAL ESTATE Q&A

  • 私が回答します

    金子徳公

    株式会社ハウジングサクセス

    • 50代
    • 東京都
    • 男性
    • 不動産会社
    投稿日
    2026/09/24

    今回のケースでは、相続人のお一人が「今すぐ売る必要はない」と反対している以上、
    その方の同意なしに家全体を第三者へ売却することは、基本的にはできません。

    お祖母さまが亡くなり、まだ遺産分割が済んでいないのであれば、
    その不動産は相続人全員で共有しているような状態になっています。
    ですから、不動産会社が「相続人全員の同意が必要」と説明したこと自体は間違っていません。

    ただし、「一人が反対したら、いつまでも売却できない」という意味ではありません。

    今回のように、築50年ほどで雨漏りもあり、すでに空き家になっていて、
    土地として購入したい人までいるのであれば、
    「今すぐ売る必要はない」という相続人の考えだけで、
    他の相続人が半永久的に処分できない状態になるわけではありません。

    まずは相続人全員で、土地・建物をどうするのかを話し合うことになります。

    例えば、

    「このまま持っていても建物が傷んでいく」
    「固定資産税や草刈りなどの維持費がかかる」
    「近隣への影響も考えなければならない」
    「現在、土地として購入したい人がいる」

    といった具体的な事情を共有した上で、
    売却して売却代金を相続人で分ける「換価分割」という方法を提案することもできます。
    家庭裁判所の遺産分割手続でも、不動産を売却してその代金を分ける換価分割は、
    正式な遺産分割の方法の一つとして扱われています。

    それでも一人の相続人が納得せず、話し合いがまとまらないのであれば、
    家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。

    調停でもまとまらなければ、
    原則として審判に移り、家庭裁判所が遺産の分け方を判断することになります。

    ですから、今回のお母さまの立場であれば、
    「弟が印鑑を押してくれないから何もできない」と考える必要はありません。

    むしろ、
    ここから大切なのは、なぜ弟さんが売却に反対しているのかを確認することだと思います。

    本当に「今すぐ売る必要がない」と考えているだけなのか、それとも、

    「もっと高く売れるのではないか」
    「思い出のある家なので残したい」
    「売却代金の分け方に納得していない」
    「自分が何か不利益を受けるのではないか」

    など、別の理由があるのかによって話し合いの方向は変わります。

    単純に「印鑑を押してください」とお願いするより、
    現在の査定価格、土地として買いたい人がいること、
    今後も所有する場合に必要になる固定資産税・草刈り・建物の管理費用、
    雨漏りによる劣化などを一度整理して、
    売る場合と持ち続ける場合を比較した方が話は進みやすいと思います。

    そして、もう一つ大事なのがお母さまがこれまで負担してきた費用です。

    固定資産税や草刈り費用など、
    相続後の不動産を維持・管理するために必要だった費用については、
    相続人がそれぞれ相続分に応じて負担するのが基本です。
    民法も、
    共有物について各共有者が持分に応じて管理費用などの負担をすることを定めています。

    したがって、お母さまが一人で支払ってきたからといって、
    そのお金が当然に「寄与分」として相続財産に上乗せされる、と考えるのは少し違います。

    寄与分は、被相続人の財産の維持・増加について特別な貢献をした場合に問題となる制度です。
    家庭裁判所にも、寄与分を定めるための調停手続があります。

    今回のように、お祖母さまが亡くなった後に、
    お母さまが相続した不動産の固定資産税や草刈り費用を負担していたという話であれば、
    私は「寄与分だから多く相続できる」と考えるより、「相続人全員が負担すべき管理費用を、
    お母さまが立て替えてきたので、
    その分を遺産分割の際に清算する」という整理で話をする方が分かりやすいと思います。

    例えば、相続人が4人で、それぞれの負担割合が4分の1だとします。

    固定資産税や草刈りなど、
    相続後の不動産を維持するためにお母さまが合計40万円を支払っていたのであれば、
    単純化すれば、他の3人がそれぞれ10万円ずつ負担すべきだった、という考え方になります。

    そのため、売却代金を分ける際に、お母さまが立て替えた管理費用をどう清算するのかを、
    相続人全員で合意しておくことが大切です。

    ただし、すべての支出が当然に相続人全員の負担になるわけではありません。
    固定資産税、必要な草刈り、建物の保存に必要な修繕など、
    「相続財産を維持するために必要だった費用」なのか、
    お母さま自身の判断で行った支出なのかによって扱いが変わることがあります。

    ですから、領収書や固定資産税の納付書、草刈り代などの記録は残しておいた方がいいです。

    税金についても、ここは少し分けて考える必要があります。

    相続した土地や建物を売却した場合、売却益が出れば譲渡所得の問題が生じます。
    相続した不動産の取得費や取得時期は、原則として被相続人から引き継ぎます。
    また、一定の要件を満たせば、相続税の一部を取得費に加算できる特例もあります。

    一方、
    今回のお母さまが負担した固定資産税や草刈り費用を「相続人間でどう清算するか」
    という問題と、売却した場合の譲渡所得税の計算は別の問題です。

    ですから、「お母さんがこれだけ払ったから、
    その分はそのまま売却価格から税務上控除できる」という単純な話ではありません。

    私なら今回のケースでは、
    まず相続人全員に現在の不動産の価値と今後の負担をきちんと見せます。

    「売りたいから売る」ではなく、

    「今売れば土地として購入したい人がいる」
    「建物は築50年で雨漏りもある」
    「このまま持ち続ければ管理費用がかかる」
    「建物の劣化が進めば、将来的に解体などの費用が必要になる可能性もある」
    「近隣への管理上の問題も出てくる可能性がある」

    という現実を並べた上で、それでも持ち続けるのかを相続人全員で考える、
    という進め方をします。

    それでも弟さんが「売らない」と主張するのであれば、
    そこで話を止めてしまうのではなく、遺産分割調停を検討する段階だと思います。

    家庭裁判所の遺産分割手続では、不動産についても、
    相続人の一人が取得して他の相続人に代償金を支払う方法、共有する方法、
    売却して代金を分ける換価分割など、複数の分け方が検討されます。

    今回のように、誰もその古い家を自分で取得したいわけではなく、
    土地として売却する方が合理的なのであれば、
    換価分割という方向で話し合うのは十分考えられると思います。

    そして、お母さまがこれまで管理費用を負担してきたのであれば、その金額をきちんと資料にして、
    売却代金の分配前にどのように清算するのかも一緒に話し合っておくことです。

    家というのは、持っているだけで価値が上がるとは限りません。

    今回のように、空き家で、築50年、雨漏りもあり、
    すでに土地として買いたい人がいるのであれば、
    「今売る必要がない」という判断も一つの考え方ではありますが、
    その間に発生する固定資産税や管理費用、
    建物の劣化、近隣への影響まで含めて考える必要があります。

    私なら、まず「売る・売らない」で感情的にぶつかるのではなく、
    現在売却した場合に各相続人がいくら受け取れるのか、
    今後5年持ち続けた場合にどのくらいの費用やリスクが考えられるのかを数字にして比較します。

    その上で話し合ってもまとまらないのであれば、家庭裁判所の遺産分割調停を利用する。

    お母さまが一人で固定資産税や草刈りを負担し続けながら、
    他の相続人の「今すぐ売らなくてもいい」という一言だけで何年も抱え続ける必要はありません。

    相続した不動産は、「誰かが欲しいと言っているか」だけではなく、
    「この先、誰がどのように管理し、費用を負担するのか」
    まで決めておくことが大切だと思います。

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